ノブレッソブリージュ
「がっ………あ、あ?」
青年の腹に、突き抜けるような激痛がはしった。
震える身体で見下ろせば、旅人の手に握られた一本の短剣が、己を貫いている。
彼の一瞬に脳裏をよぎったのは、理不尽な運命への壮絶なる嘆きの言葉であった。
声帯で震える前に、青年は濡れた石畳に倒れ伏した。
「…これで反帝軍は生き延びたわけだ」
嫌悪を露にして呟いたノエルの苦悶の表情を、ローラントはただ冷ややかに見詰めた。
「非難するのは自由だぜ」
「ごめんね、俺自分を非難できるほどネガティブにはなれねえんだわ」
いい加減慣れろ、と言いかけたところで、ローラントは言葉を飲み込んだ。
こういう風に、まだ『人間くさい』ところがノエルの長所であり、またローラントにとって良い歯止めとなっている。
壊してしまえば、何れ義務を捨てて濫用することであろう。
歴史の改竄に依存し始めた、この赤髪の鬼を。