オルガンの女神
序章.BRAND PAGE
┣「Baby kitchen」
雲が掃けた空を、一機の飛空艇が横切る。
色彩豊かな瓦屋根に石畳。小洒落た街灯。飾られた針葉樹。五感を賑わす街並み、それがホット・クロック。
円形広場の噴水は、スピーカーから流れる曲にあわせて弧を描き、曲芸士が風船で動物を作る。
人々は口を揃えて「芸術の街」と、そう呼んだ。
そう言われる由縁は、何も美観に優れた街並みだけが要因なのではなく、この街に集まる芸術品の数もその要因の一つ。
富豪ディリカ・ブロッケル氏が趣味で始めた芸術品収集が、美術館開設に至るまではそう時間が掛かる事ではなかった。
そんな美術館を一望できるのは、今秋開設予定のここ二番館に他ならない。
骨組み作業が進む中、その男は仁王立ちし、双眼鏡を覗いていた。
形の良いスキンヘッド。鋭いサングラス。体幹の優れた肉体を纏(まと)う黒スーツ。
名を、ボズ・ウォーリア。
「どうだい相棒。何か動きはあったか」
そして、骨組みを器用につたい、ホットドッグを頬張る男。
目に掛かる赤髪。柔らかい猫目。緩めた口端。ダークグレーのシャツに牛柄のネクタイを締めたその男。
名を、ベック・ローチ。
指先についたケチャップを舐めていると、ボズが静かに口を開く。
「予想通り、WALTZ(ワルツ)を雇ったようだ。あの紋章は8番隊のものだろう」
「8番隊って。これまた安上がりな」
「侮るな。奴等とて派遣型軍事組織“WALTZ(ワルツ)"の一員だ」
「お堅いねえ。“暴君(サップ)"の名が泣くぜ?」
「お前が楽観的過ぎるんだ“お調子者(ウッドペッカー)"」
「そうかい?」そう言って片目をつぶるベック。
そして昼間の空に浮かぶ特殊塗料の文字と月日。
“この度、パームの金貨を貰いうける"。