好き。
そのことにムッとしながら、さっきまでの自分の行動を振り返ってみる。
“ある場所”というのは、謂わば秋先生たち研修医が会議とかで集まる研修室。実を言うと、私の病室から一番遠い場所にあって。
だからこそ、さっきはあんなに急いでいた。この高代病院はものすんごく大きい、ものすんごく広い。初めてこの病院を訪れて迷子にならない人は少ないと思う。もちろん、私も小さいときはそのうちの一人だった。
研修室にいると分かったら、その人が動かないうちにその場に行った方が絶対に得策。なんたって次に会うのにまた時間がかかるから。
秋先生が動かないでくれればいいけど、そんなわけにもいかず。ましてやこの病院の跡取りでもある秋先生は、逆に動き回って内部をよく知らないといけない。
「おい、黙ってないで何か言ったらどうだ」
「なっ、そんなに怒らなくたっていいじゃないですか!」
思わず回想していた私に怒鳴りつける秋先生。確かに、検診前に病室を抜け出すなんてバカなことした私も悪いけど。3年ぶりの(私からしたら)感動の再会だったのに!
「おまけに、なんだその変な敬語は。今まで散々タメ口だったろうが」
「…そ、それは」
そして一番気づかれては欲しくないことに気づいた秋先生。
絶対言えない、口が裂けても言えない。
「…」
「…薬増やすか?」
「言います言います!!」
ダメだ、無理だ!秋先生には逆らえない。薬増やすなんて…そんなの逆らえるわけがない。だから少しでも小さく、小さく呟こう。
「…秋、先生が」
「ん?」
「なんだか、大きく見えたから」
「…」
…っあああ。恥ずかしい!
で、でも仕方ない。さっきは勢いで抱きついてしまったけど。