好き。
「…っ、先生?」
「ん?」
「……おかえりなさい」
「ふっ、ただいま。つか今更?」
口から自然と溢れた、そんなたった一言。
秋先生に今更?と、笑われたことは気にしないでおこう。
なぜだろう、急に言いたくなった。「おかえり」と「ただいま」なんて、きっといつでも言えるのに。
考えて考えて。
そして―――…“いつでも”という言葉に苦しむ私がいたことに気づく。
いつでも、じゃないかもしれないから。
だから、言いたくなったのかもしれない。言葉にしたくなったのかもしれない。
「……若葉?」
急に黙り込んだ私を心配してか、秋先生は顔を覗き込んできた。その距離、きっと15センチくらい。
見れば見るほど、秋先生の顔が綺麗だと分かる。黒い髪に、少しだけ茶色い髪が混ざっていて。キリッとした目をしてるくせに二重。スタイルだっていいし、バカみたいに顔が整ってるし。
それに対して、血色の悪い肌に何度も針を刺された私の腕には無数の痣。太ってるわけじゃないけど、スタイルがいいわけでもなく。むしろ痩せすぎてガリガリ状態。
私の入院してる場所はいわば個室というもので。誰が見てるわけでもないんだけど。
こんな状態を見られるのが恥ずかしいと、そう咄嗟に思ってしまった。
「あの、なんでもっ、」
「んな顔で言われて、はいそうですかって言えるほど俺は大人じゃない」
「私よりは十分大人じゃないですか」
「……否定はしないな」
訪れた沈黙。