好き。
最初こそわーわーと騒いでいた私、だったけど。
「ったく、余計な手間かけさせやがって。最初から大人しくそうしてればいいんだよ」
「…すいません」
秋先生の一言で、スッと我に返った。さっきまでは胸を見られるのが恥ずかしいとか、そういうことしか頭になくて。でもそれは私の年頃ならではの思いとか、そういうので言い訳にしてたけど。
研修医にプラスして、この病院の跡を継ぐ秋先生。私の担当医になって時間なんて今まで以上に減っただろうし、それにこれからたくさんの仕事が彼にはある。
それなのに、私ったら何をしていたんだろう。
自分の都合で彼の大切な時間を減らしてしまった。そう考えれば考えるほど、今まで浅はかな行動に自分を恨めしく思った。
「おい、何いきなり黙ってるんだよ」
「……なんでも、ないです」
「ふーん、そうかよ。とりあえず当てるぞ」
先生がそう言ってから数秒後。ヒンヤリ、聴診器の金属部分が私の胸に静かに触れた。いつまでたっても慣れないその感覚に、一瞬だけ心臓がトクンと跳ねたのが分かった。
クスリ、先生が笑う。聴診器で私の心臓の音を聞いてる先生には筒抜けも同然。その証拠に先生は「まだ慣れないのか」と眉を下げて言った。その表情といったら、「まだまだ子供だなぁ」とか「早く慣れろよな」とか、まるでバカにしたように、でもどこか優しさを含めて言うものだから。なぜか怒るにも怒れなかった。
―――それから数分後。
「よし、今日も生きてるな」
先生は必ずそう言ってから、私の頭を優しく撫でる。
これは毎回の決まりごとみたいなもので。
実は私が小学生のときからこれは続いてる。聴診器とまではいかなくても、腕の脈を計ったりだとか、私の胸に手を置いて動いてるのを確認してからだとか。私がちゃんと呼吸をしているのを確かめてはそう言って、心底安心したように微笑む。
その顔が、私は世界で一番大好きなのだけど。