好き。
「秋先生はなんで“生きてる”って毎回言うんですか?」
「は?だって生きてるだろお前」
「そ、そうですけど」
秋先生はそう言うと、器具を片付け始めた。
テキパキとした無駄のない行動。たったそれだけなのに、私はまるで良いものでも見たかのように小さく微笑む。
「見てて面白いものじゃないだろ」
「私にとっては違うんですよ」
「…」
それ以上は何も言わず、結局片付けが終わるまでお互い一言も言葉を発しなかった。不意に外に目を向ければ、今日は雲行きが怪しい空で。静かに溜息をついた私は、自分でも気付かずに服の裾を握りしめていた。
曇りの空は、なんとなく嫌いで。
それならば雨降りの方が好きだった。
はっきりとしない空模様は、私の心に感染していくかのように広がっていく。モヤモヤとした、なんともいえない居心地の悪さは苦手だった。
「中庭に行くなら、何か羽織って行けよ」
「風が冷たいですかね」
「ただでさえ体温が低い方だろうが。これ以上低くなられたら、暖房つけるぞこの部屋」
季節は春と夏の間。
暖房をつけるにはまだまだ早すぎる。冗談で言っていると知っていても、想像するだけで暑苦しい。
「気を付けますって。それより、秋先生はこれから朝の会議が始まるんですよね。もう時間ですよ」
「誰のせいだと思って」
「それについてはノーコメントで」