好き。
「まったく、」
ぶつぶつと何かを言いながらも、秋先生はおもむろにクローゼットへと手をかけると、そのまま目当てのものを静かに取り出した。
患者衣はただでさえ青色で、私はその色が大嫌いなのに。紺色のそれは、余計に私の嫌いを増幅させるだけだった。
「それぐらい自分で出せますよ」
「こうでもしなきゃ、お前は結局着ないで行くんだろう」
「…」
「呆れるほど変わらない」
ぐうの音も出ないとは、まさにこのことかもしれない。したり顔で笑った秋先生には、何もかもがお見通しだった。
けれど突然、悪戯っ子のように笑うその仕草に少しだけ、少しだけどこか分からない部分が苦しくなった。
「…?」
「どうした、具合でも悪いか?」
「そ、そういう訳ではないんですけど」
胸に手を当ててみると、いつもよりちょっと早い鼓動。秋先生に心音を計ってもらったときよりも、ずっとずっと緊張しているのが伝わってくる。なんて可笑しなことなんだろう、さっきの方がよっぽど恥ずかしくて、あれだけ騒いでいたのに。
たった数秒の出来事が、それを遥かに上回っているなんて。
きっと考えても答えにたどり着かない。そんなの知っているのに、考えられずにはいられなかった。
「取り敢えず熱はないようだが…。念のため外出は控えとけ」
「えー!そんな」
「目の前でそんな訳の分からない行動されて、こっちのことも考えろっつの。気になって仕事もできねぇ」