好き。




「じゃじゃーん!」



だから私は、声を大にして“ある一冊の本”を取り出した。



「私高1の勉強範囲終わったの!次から高2だよ?」



ある一冊の本。もとい、秋くんからちょこちょこ借りてた学校の教科書。
「勉強して損なことはない」という秋くんの教えに逆らうことなく、暇な時間はとにかく勉強した。



中間考査や期末考査の問題用紙も貰って、85点以上取れたら次の学年の勉強を独学でやり進む。それを永遠と繰り返してるうちに、いつしか高1の問題まで解けるようになってて。



「どう?これで秋くんにまた一歩近づけたでしょう?」



なにが一番嬉しいかって、勉強できたとかそんなんじゃなくて。
秋くんとの6年の隙間を埋めていけるような気がして。



少しでも、近づきたくて。



「…はぁ。一歩っつーか、お前は既に俺の何歩も先を歩いてる気がするけど」

「え、ええええ!?」

「うるさい」



だから、突拍子もなく言われたその一言に、私は混乱するしかなかった。



「私秋くんより年下なんだよ?」

「年齢とか関係ねぇの。なんつーか、大きさ?」

「えええ!?私太ってる!?」

「違げぇよ!!つかお前は痩せすぎ」



だんだんと話がズレていくのを気にしながら、それでも私の頭の中は秋くんの言葉でいっぱいだった。




“何歩も先を歩いてる”




……違う、違うのに。
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