自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月26日(日) 出産後 その2



 目を開ける。


 どのくらい時間が経ったのだろう。

 痛みに熟睡できず、ずっとウトウトしていた。


 椅子に座って夫が本を読んでいた。

 夫以外、誰もいない。

 もちろん、赤ちゃんも。



「起きた?」

「今何時?」

「6時くらい」

 結構寝てたんだなと思う。




「M(私)お疲れ」と夫。

「Y(夫)もありがとう。時間潰すの大変だったでしょ」


 私は陣痛やら何やらで、ずっと苦しかったけど、夫はその間、何もやることがないのに付き添ってくれていた。

 暇な時間は退屈だし、結構疲れると思う。


「オレ、役に立った?」

「すごく。陣痛の時、一人だったら耐えられなかった」


 立ち会い出産は、分娩時より、陣痛時の心細さに効くんだと思う。



「陣痛は大変だったけど、産むときは早かったね」と夫。

「3回いきんだら、出た」と私。

「でも、産んだあとMの身体、びっくりするくらい冷たくなってたし、手もだらんとしてて、しかも気を失ったように寝たから、死んだかと思った」

「自分でも、出産して死ぬ人ってこんな感じかなってちょっと思った」




 そこから、中の人(赤ちゃん)の話へ。

「思っていたよりもブサイクだったんだけど」と私。

「髪の毛、黒人並みに天パだったね」と夫。

「しかも下唇なかったよ」

「なかったね」

「もしかして……うちの子すっごくブサイクなのでは……」

「う~ん」




 しばしの談笑の後、看護師さんがやってきて、入院部屋への準備に移る。


「6人部屋になります」



 え??

 バースプランにも、入院は個室希望と書いたはず。

「個室でお願いしたはずなんですけど」と夫。

「個室は今満室で、他にも待っている人がいるんですよ~。だから空き次第順番に移る形でいいですか?」

 仕方ないかと承諾し、夫が私の荷物を持って先に移動。


 看護師さんに手伝われ、立ち上がる。

 フラフラと倒れそうになり、もう一度ベッドで休む。


 結局、大部屋に移った時には午後7時半を過ぎていた。

 面会時間は午後8時まで、時間厳守。




 窓際に私のベッドがあった。

 向かいと右隣のベッドが埋まっていて、仕切られたカーテンの内側から、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。



 ベッドの横に夜ご飯が置いてあった。

 点滴をつけたまま横になる。

 お尻とお腹が痛すぎる。歩いても横になっていても、座っていても、何をしていても痛くて辛い。


 なんやかやしているうちに午後8時。


「明日面会時間始まったらすぐに会いに来るから。食欲なくてもご飯食べるように」と言い残し、夫が帰っていった。


 言われたとおり、頑張ってご飯を半分ほど食べ、点滴が終わるまで横になった。



 約30分後、点滴が終わる。ナースコールを押す。

 点滴中、向かいの赤ちゃんがぐずって泣き続けていた。



「……」

 10分経っても、誰も来ない。



 もう一度ナースコール。

 確かに、「プツ」っと音がした。



 また10分。



 誰も来ない。

 ナースコールのやり方が間違っているのだろうか?



 もうこのまま寝てしまおうと思ったけれど、やっぱり点滴の針をつけたままだと眠りにくい。

 もう一度ナースコールをした。




 しばらくして、やっと看護師さんがくる。



「どうした? トイレ??」

 ちょっと面倒くさそうな言い方。


「点滴が終わりました」

 途端に口調が変わった。


「あ、ごめんなさいね。ちょっとバタバタしていて、誰か代わりの人が来てると思った」

 不信感が募る。でも、とりあえず点滴は外してもらえた。

 寝る前にトイレへ。




 座るとお腹とお尻に激痛が走る。

 縫合した場所が引っ張られて痛い!!

 生理用品を見て、衝撃を受ける。



 私は生理が重いほうだけど、そんなの比じゃない。




 まさしく大量出血!

 死ぬんじゃないだろうか? ってぐらいだ。



 怖くて、用は足さずにベッドへ戻った。





 とにかく、さっさと眠ってしまおう。



 痛みを忘れるにはそれが一番だ。

 早く治して、早く退院したい。

 帰ったばかりの夫が既に恋しい。




 目をつぶる。

 疲れているせいで、あっという間に眠くなった。







 でも……










 ウトウトした途端、向かいの赤ちゃんが泣き始める。

 4~50分後、やっと大人しくなった。



 またウトウトする。


 すると、今度は右隣の赤ちゃんが泣き始める。


 4~50分後、泣き止む。




 ウトウト。



 今度は向かいの赤ちゃんが泣く。




 もう嫌!






 布団を頭から被って耳を塞ぐが、ひどい泣き声で効果なし。


 なんで人の赤ちゃんの泣き声って、こんなにうるさいのだろう。

 動物の赤ちゃんは、もっと控えめに可愛らしく鳴くのに。




 この部屋、6人部屋なのにどうしてベッド密集させてるの?

 せめて、もう少し離してくれればいいのに!





 イライラする。





 もう、ホント、赤ちゃん、うるさい!!!


 身体が痛いのに眠れないよ。


 やっと楽になれると思ったのに。





 眠らせて!






 携帯の時計を見る。

 まだ深夜0時を回ったところだった。



 ため息が出る。



 長い長い夜になりそうだ。





















 
 


 



< 210 / 248 >

この作品をシェア

pagetop