自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月27日(月) その3


 授乳は、思っていたより難しい作業だ。



 まず、椅子に座る。

 次に、ミニーマウスの授乳クッション(出産前に購入したもの)を膝の上にに乗せ、その上に赤ちゃんを寝かせる。

 赤ちゃんの頭を肘に乗せて、おっぱいを口元に持っていく。


 早速、左胸で実践。


 赤ちゃんが小さいせいで左胸を赤ちゃんの口元へ持っていくと、体が斜め左前のめりになる。


 助産師さんが、左膝にテキストなどを挟んでかさ増ししてくれたけれど、なかなか上手くいかない。


 でも、それよりもっと大変なのは……




 この人(赤ちゃん)、全然起きない!!




 助産師さんが、足の裏をひっかくようにしてくすぐる。

 

 もぞっと動いた。


「今だよ!」


 すかさずおっぱいを含ませる。



 ちょっと吸った。

 そして、



「……寝ちゃいました」

「じゃあ、またくすぐろうか」





 そうやって、約30分。

 赤ちゃんをくすぐって、授乳を繰り返した。




「まあ、こんな感じで、3時間毎に、左右のおっぱいをトータル20分間吸わせて、その後ミルクを30mlあげてね。これが記録用紙」


 母乳をあげた時間、ミルクを飲んだ量、尿、ウンチの回数とオムツ交換の回数を記録するプリントを渡された。

「夜中でも眠くても、3時間毎の授乳だよ」と念を押される。



 授乳の練習が終わり、赤ちゃんの入ったカートをガラガラ押して、部屋のベッドへ向かう。




 赤ちゃんが初めておっぱいを吸ってくれた時は、感動した!!!





 とか、聞くけれど。






 残念ながら、私はそんな気持ちになれなかった。


 助産師さんと看護学生さんがいる中で、自分だけおっぱいを出して、それを赤ちゃんにくわえさせる。


 一体何をやっているんだろうって思う。

 それになにより、



 吸われた所がヒリヒリして痛い。




 椅子の上にドーナツクッションを置いてはいたけれど、お腹とお尻がジンジン痛かった。

 座り続けたせいか、足のむくみも酷くなっている。




 体調が悪い。眠い。


 早く退院して、家でゆっくりしたい。





 ベッドに戻ると、昼食が置いてあった。なんだかんだでもう12時を過ぎている。

 夫に連絡し、来てもらう。



「うわっ! なんかいる」

 夫がカートの中を覗き込む。



「あれ? 天パじゃなくなってる」ヒソヒソと夫が言う。

「そうなんだよね」と私も小声で相槌。

「昨日見たときは、頭も長細いし、髪の毛クルクルで、鼻もぺちゃんこで、ブサイクだと思ったけど、案外可愛いんじゃない?」

「相変わらず下唇ないけどね」

 ヒソヒソ笑う。

「元」中の人は、全く起きる気配なし。本当に良く眠る。






「お土産」と、夫が病院のエントランスにあるパン屋さんのパンをくれた。

 妊婦健診時に、気になっていたパン屋さんだ。


「パンより病院食が美味しそう」

 夫は恨めしそうにテーブルを眺める。

 私はパンが食べたい。


 病院食のおかずを半分食べ、夫に残りをあげる。

 私はお土産の甘いパンを食べ、パンって美味しいなと幸せな気分になった。



 あっという間に、午後1時。

 午前中(?)の面会時間が終わってしまう。





 すごく寂しい。




「イオンで時間を潰して、3時(午後の面会開始時間)きっかりに戻ってくるから」と夫。



 夫を見送り、この後どうしようかと考える。

 次の授乳も15時。

 それまでにシャワーを浴びよう。昨日は身体を拭いてもらっただけで、髪がべたついて気持ち悪い。



 「元」中の人(赤ちゃん)は、すやすや眠っている。



 オムツの黄色いラインが前側だけ青くなっていた。

 おしっこをしている証拠だ。


 って、ことは……


 怖々おむつを取り替える。




 この人(赤ちゃん)、あまりにも小さすぎて、お尻を持ち上げると、骨折れそう。

 授乳訓練で抱き上げた時もぐにゃぐにゃしていて怖かった。


 なんとか新しいおむつを装着。

 お尻とオムツの間にすごく余裕がある。お腹のテープはしっかり止めたけど、なんかブカブカだ。

 これで大丈夫だろうか?


 不安になりつつも、カートごと保育室へ連れて行く。




「あら、シャワー?」

 助産師さんに尋ねられ「はい」と答える。


「ゆっくりしてきていいよ~」

「ありがとうございます。あの、シャワー室って、どこですか?」

 私は生粋の方向音痴。一回説明されただけでは、道を覚えられない。


 助産師さんに案内してもらい、シャワー室へ。 


 夫のお母さんから頂いた、携帯用のロクシタンのアメニティを使う。5ハーブスという名前で、ハーブのすごくいい香りがする。

 下半身はズキズキするし、大量の血は流れっぱなしだったけど、西武で買った高級バスタオルで身体を拭いて、なんとなくリッチな気分になったし、さっぱりした。

 シャワー室を出てすぐ、小さな休憩室があり、ドライヤーが置いてあった。

 髪を乾かしながら窓の外を眺めると、遠くにセリオンが見えた。






 一昨日、私はあの展望台から景色を眺めていた。


 たった2日前のことなのに、あれからもう1ヶ月くらい経っている気がする。


 昨日から、1日がとてもとても長い。


 そして、既に夫が恋しい。



 早く15時にならないかなと思った。

 




 

 








 









 

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