自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月27日(月) その5


 午後7時半、夫が両親を連れて来た。

 妹は仕事で来れないらしい。


「おう」と父。

「大丈夫?」と母。

 みんな小声。



 カーテンで仕切られた、狭いスペースの中での面会。

 他の人に気を遣い、小声で会話する。


 なんか……

 落ち着かない。




 他の入院者たちも、それぞれに面会人が来ていて、ヒソヒソ楽しそうに話している。

 音的には静かだけど、なんとなく明るく賑やか。不思議な空間だ。



 夫が慣れた手つきで(午後の面会中に抱っこを習得した)カートから赤ちゃんを取り出し、「どうぞ」と母に差し出した。

「小さいね~」と母。

 隣で父が覗き込み、白い肌着の、ずっと奥の方にある手を触る。

 反射で赤ちゃんが父の小指を握り締めると、「握った」とにやり。


「お父さんも抱っこしたら?」と、母。

 さすがに母は抱っこが慣れている。だてに3人の子育てをしたわけじゃないな、とちょっと関心した。
 



「潰したら大変だからいい」と父はビビリ気味。

「大丈夫、大丈夫」私と夫。



 文字通り、怖々、といった感じで、父が赤ちゃんを受け取った。

「すやすや寝てる」と感想。


「ずっと寝っぱなしだよ」と私。

「手がかからなくていいね」と母。



 両親の、特に父の、嬉しそうな顔を見て、産んでよかったかも。と思った。



 あっという間に午後8時。

 みんなが帰って、午後9時消灯。

 薄暗い中、周りの赤ちゃんの泣き声が響く。
  






 ……寂しい。
 





 静かにベッド上の電気をつけて、オムツ交換と、授乳を開始する。

 全て終わると、午後10時。


 次の授乳時間は午前0時。

 身体痛い。

 眠い。

 今のうちに仮眠を取ろう。








「ふんぎゃ~、ふんぎゃ~」






 眠ろうとした途端コレだ。



 もちろん「元」中の人ではない。



 向かいの赤ちゃん。

「し~、し~」とお母さんがあやしている。


 でも。

「ぎゃわ~、ぎぁ~」

 全く泣き止まず、泣き声がどんどん大きくなる。

「もう~、なんで泣くの?」と少し切れ気味のお母さん。



 30分経過。

 大人しくなった。




 すると。




「おぎゃ~、おぎゃ~」

 今度は隣の赤ちゃんが泣き出す。

 その声に反応して、向かいの赤ちゃんも「ぎゃわ~」と応戦。



 さすがに「元」中の人も、ヒクヒク。

 泣いたらどうしようと怯えたけれど、結局「元」中の人は、そのまま眠りについた。

 この人は、夜泣きしない。

 それは大変ありがたい。



 でも、ウチだけ夜泣きしなくても、全く意味がない。



 他の赤ちゃんの泣き声がうるさくて、結局眠れないのだ。


 指で耳栓をして、布団を頭から被っても「ぎゃわー」「おぎゃー」とつんざく声はシャットアウトできない。


 まだ、お腹もお尻も、てゆうか、全身ものすごく痛いのに、出産後、全然ゆっくりできないし、全く眠れない。

 
 頭おかしくなりそう。


 



 やっと静まった。




 携帯で時間を確認。


 午後11時半。

 あと30分で授乳時間じゃん。

 今寝たら絶対に起きられない。




 仕方なく、携帯のホットニュースを眺め、時間を潰す。


 やることがないと、お腹のジンジンした痛みに、唸りたくなる。

 
 せめて、この膣の痛みさえなければいいのに。

 会陰切開されたことを思い出して、精神的にもブルーになる。



 あの時は、苦しすぎてわけがわからない状態だったけど、やっぱり嫌って言えば良かった。

 かなり流血してるけど、ちゃんと治るんだろうか。

 きっかり、元通りじゃなきゃ嫌だ。


 もちろん、そんなところ、自分では見たことないけど。


 それでも、絶対元通りじゃなきゃ嫌!!



 ふと、疑問が湧き上がる。



 中の人、結構ちっちゃかったのに、しかも、たった3回踏ん張っただけで、するんと出たのに、本当に切開が必要だったんだろうか。









 はた、と思いたって、病院名と会陰切開のキーワードで検索してみる。





 色々な産婦人科の基本情報が掲載されているサイトを見つけ、開く。







「!!」


 危うく声が出そうになった。





 なぜなら。


 この病院の会陰切開率……
















 100%








 ありえない!


 80%とかならまだわかるけど、100%って。




 つまり、切らなくてもいい時でも、切るってことじゃん!!


 じゃあなんで、バースプランに「会陰切開」についての項目があったわけ??




 怒りが込み上がる。


 涙も込み上がる。




 もう嫌だ!



 なんで、ちゃんと調べなかったんだろう。


 女医さんの有無ばっかりとらわれてた。



 自分、バカだ。





 後悔したところで、切った部分は元には戻らない。




 授乳の時間だ。








 暗い! 身体痛い! 赤ちゃんうるさい!!





 とにかく、ここから脱出したい!





 げんなりしながらオムツ交換。



 ピュッ




 オムツを開けた瞬間、おしっこを噴射される。


 慌ててオムツでカバーしたけど、もう遅い。



 タオル生地の肌着が濡れている。


 着替え、どこにあるのかわからない。

 着替えのさせ方もわからない。

 どうしてよりによって、こんな夜中に……



 もうホントに……




 赤ちゃんって、面倒くさいだけだ。
























 





< 215 / 248 >

この作品をシェア

pagetop