自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月28日(火) その3


 シャワーを終え、「元」中の人のカートを引っ張りながら、自分のベッドに戻る。

 この人、本当に泣かないな。

 早くも親孝行?


 口の周りをミルクかすで真っ白にして、しかも口半開きで、ついでに目も半開きで眠りこけている。




 なんか、ちょっと。



 可愛い。





「我が子」というよりは、「珍獣」的な可愛さ。



 どちらかといえば……ブサかわ的な?
 




 東京にいた頃、大久保のペットショップで見たピグミーマーモセットに、似ていなくもない。

 価格は52万円だった。

 あまりにも可愛くて、半年間購入を迷った。



 カートを覗き込む。






 タダで子ザルを手に入れたと考えれば、案外可愛がれるかもしれない。





 
 ……いや、全然タダじゃないし。


 これまでの妊婦健診で、既に数万円かかってんじゃん。


 しかも、これから、出産、入院費用も請求される。


 一体いくらなんだろう。

 結局、休日に産んじゃったし。

 出産一時金の42万円では絶対に足りない。



 それに何より、ピグミーマーモセットを購入しても、私の身体は痛くも痒くもない。




「……」


 考えても仕方ない。



 ほっぺを指でつついたら、原始反射でニヤリと笑った。




 
 ……変な奴だ。








 お隣のベッドの人が、電話している。


「うん、そう。今すぐ。なんかさ~、3時過ぎに退院するって言ったら、退院前に授乳指導って言われて。面倒くさいから、おやつ食べずに帰る。うん。今から来て」





 ‥‥‥‥‥‥







 親近感を覚えた。





 もちろん、私の密かな好意等知る由もなく、約30分後、彼女は晴れて退院していった。



 



 いいな~。






 羨ましいな~。







 でも、とりあえずこれで、






 赤ちゃんが一人減った!!








 元気なら小躍りでもしたいくらい、嬉しい。


 元気でも、小踊りしないけど。



 それくらい、嬉しい!





 この喜び。









 夫にでも伝えよう。





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