自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月28日(火) その5

 斜め向かいのベッドが、ようやく落ち着いた。

 お母さんらしき年配の女性はいなくなり、旦那さんと、入院着の女性との会話が聞こえてくる。


「いつ移動できるんだろう」と女性。

「看護婦さんが『空き次第』って言ってたから、夕方には個室に移れるんじゃない?」と男性。

「早く移ってゆっくりした~い」と甘える女性。




 夫と、目配せする。




(残念ながら、まだまだあなたはここですよ)

 と、苦笑い。




 彼女の前に、私がいる。


 もし、向かいのベッドの人もなら、3人待ち。





 夕方どころか、最悪、退院まで大部屋かもしれない。


 ……て、それ、私にも当てはまるような。




 明日からは、夫もいなくなる。

 ストレスでハゲそうだ。

 冗談ではなく本気で、円形ハゲの1つや2つ、できそう。


 助産師さんたちは抜き打ち的にやってきて、記録用紙をチェックし、ちゃんと育児が出来ているかどうか(特に母乳をしっかりあげているかどうか)常に目を光らせている。

 なんか監視されているみたいで、気が休まらない。


 特に私の場合、「元」中の人が食い気より眠気で、なかなかミルクも母乳も飲んでくれない。そのせいで、何度も指導が入っている。

 助産師さんが来るたびに、また何か言われるんじゃないかとヒヤヒヤしている。


 安らげるのは、夫がいる間だけ。

 それもなくなってしまったら……




「今日は8時まで、ずっといるから」と、何やら察した夫。 


 夫は優しい。

 その優しい夫と一緒の時間は、あっという間に過ぎていく。



 
 会話をしながら、授乳やオムツ替えをして、あれよあれよという間に、午後7時。

 夕飯を二人で分け合って食べる。



 午後7時半、両親と妹が面会に来た。



「すごい。本当に生んだんだ~」と小声で歓声を上げる妹。

「抱っこしてみたら?」と私。



「ちっちゃいね。でも、赤ちゃんぽくないね。大人びた顔してない?」



 新生児って、いわゆる『赤ちゃん』の丸っこいイメージとは、少々異なる。



 しかもこの人の顔、たった二日で変化した。

 生まれたてはぺちゃんこだった鼻が、ちょっと高くなった。

 逆ハの字の眉毛も少し濃くなって、口をキュッと結んでいる表情は、愛らしい赤ちゃんというより、考える人?

 その顔で、口の周りにミルクかすをつけているギャップが、私的にツボだったりする。



 母、父、妹が交互に「元」中の人を抱っこし、写メを撮っていた。


 妹は私の足のむくみに驚いて、すごい心配してくれた。

「何かいるものある?」と聞かれたので、マンガをリクエスト。

 どうせ眠れないなら、マンガでも読んでる方が、夜も早く過ぎそう。




 そんなこんなで午後8時。

 みんなが帰って、午後9時消灯。





 予定通り、斜め向かいのベッドにも赤ちゃんはやってきている。

 そして、いなくなった赤ちゃんよりも、更によく泣く。



 入院中の24時間は



 ここからが



 長い。
























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