自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月29日(水) その7


 ウトウトしていると、



「いやぁ! いやぁー!」




 突然、蓮が泣いた。



 びっくりして飛び起きる。



 携帯の時計を見ると、あと10分で23時になるところ。


 丁度、授乳の時間。

 オムツを交換して、母乳とミルクを与える。



 ミルクの途中で、いつもどおり蓮は眠ってしまった。

 
 そっとカートに戻し、またベッドに横になる。

 
 蓮がこんなふうに泣くのは、初めてだ。



 まだウンチが出ていなかったな。


 20時の哺乳量測定後、ずっと苦しそうな顔だったな。






 一抹の不安。








 ……とにかく、次の授乳まで眠ろう。









「い、いやぁ~! いやぁ!!」

 また蓮が泣いた。


 まだ、1時間も経っていない。


 オムツを交換してみる。何も出ていない。

 母乳をあげてみる。

 嫌がって、泣き声は一層激しくなる。




 抱き上げて、揺らしても、全然泣き止まない。




 どうしたらいいの?


 オロオロしながら、ミルクを温める。

 ミルクが人肌になるまでに、10分かかる。


 早く、早くと思いながらあやし続ける。


「いやぁ~! いやぁ!! ああ~!」

 甲高くて、耳がキンキンする。

 精神的に追い詰められる。



 絶対、哺乳量測定のストレスだ!

 ウンチの途中で、しかも無理矢理ミルク飲ませたせいだ!!



「いやぁ~! いやぁ~!!」

「もう、ヤダ」

 こっちが泣きたい。





 ようやくミルクが温まり、飲ませてやる。

 やっと、静かになった。




「赤ちゃん泣いてるね。大丈夫?」

 例の助産師さんが入ってきた。



 全部、この人のせいだ。

 そうとしか、考えられなかった。



「大丈夫です」

 顔を見ないで、それだけ言う。


「お腹空いてたのかな」と助産師さん。


 ダメだ! 無視できない。


「今まで、こういう風に泣いたことが無かったので、強いストレスがかかったせいだと思います」

 蓮にミルクを与えながら、低い声で言う。



「ストレスって?」




 もう、言ってやる!

「ウンチが出ないまま、哺乳量測定で、無理矢理ミルクを飲まされたからだと思います」





 すると。





「そっか~、赤ちゃん体重増やさなきゃいけないけど、お母さんとしては、寝ているのを起こして授乳するのが辛いのかな」

 急に優しげな声で、そんなことを言い出した。


 

 全っっ然、違う!!!

 しかも、哺乳料測定の時、私や両親を見下した感じだったのに、何急に優しい助産師さんぶってんの??

 絶対、この態度の変化、おかしい!!




「ウンチもあれから出ていないので、それも夜泣きの原因だと思います」

 話、すり替えないでよ。


「ウンチはね、出る時もあれば、出ない時もあるから大丈夫」

 また、なだめるように優しく言う。

 その口調にイラっとする。


「でも、今まで夜泣きしなかったので、確実にストレスがかかっていると思います」

「そうか~、うん、そうかもね。ずっと一緒にいるお母さんだから分かることも、あるかもしれないね」

 心理学の同調のつもり?



 この人、言いなりだった私が怒ったのを見て、なだめに入っている。

 そういう人、一番嫌い。


 優しい口調で、まだ居座ろうとする助産師さん。


「とにかく、ミルクは出来るだけ飲ませるんで、大丈夫です」


 顔を見ないで、それだけ言って、後は無視。



「じゃあ何かあったら、遠慮なく言ってね」と、帰って行った。



 イライラする。




 哺乳瓶を置いて、蓮を抱きしめる。

 ミルク臭い。



 赤ちゃんって、本当にミルク臭い。


 ちょっと、落ち着いた。





 以前飼っていたモルモットも、赤ちゃんの時、こういう匂いがした。




 蓮をカートに戻し、ベッドに横たわる。

 添い寝したいな、と思った。



 そういえば、モルモットの命日は、5月27日。

 蓮の誕生日と、一日違いだ。




 
 まあ、たぶん、何の関係もない。








 そして。




 その後も、蓮の夜泣きは続いた。





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