自己チューなアラサー転勤族主婦の妊娠日記
5月30日(木) その4


 沐浴室には、私の他に、2名のお母さんが待っていた。

 沐浴室のすぐ隣が保育室。

 そこから、「いやー」と泣き声が聞こえている。



 蓮だ!



「じゃあ、始めましょうか」と助産師さん。

「今回は、S(私の苗字)さんの赤ちゃんにモデルさんになってもらいます。他の赤ちゃんたちは検査があったので、検査のないSさんの赤ちゃんにお願いすることになりました。他に意味はありません」

 お母さんたちを見回して、助産師さんが説明。


 たまたま蓮になったことくらい、皆分かっていると思うけど、こういうところでも、公平を期さなきゃならない時代なのか。


 まあ、確かに、沐浴モデルが蓮だと聞いた時、ちょっと嬉しかったしな……






「いやぁ!! いやー」





 蓮登場。




「い、いやぁ! いやー」

 助産師さんの腕の中で、泣きまくっている。


 やっぱり、お腹空いてるんだ。
 
 朝のことを、反省する。



「ごめんね、嫌なの? お腹空いてるんだね。もうちょっと我慢ね」と助産師さん。

「い、い、い、いやぁー!!」

「ごめん、ごめん。嫌なのね」


 蓮と助産師さんのやり取りに、皆笑っている。



「すぐ、やっちゃおうね」と、肌着を脱がせていく。


「あらかじめ、新しい肌着を広げた上にバスタオルを広げて、更にその上に、沐浴布をセットしておきます」


 裸になった蓮が、沐浴布に包まる。


 小動物もそうだけど、小さな生き物をタオルや布で包んだり、ちっちゃい入れ物に入れたりすると、どうして人は可愛いと思うのだろう。



 つまり……ちょっと、可愛いかったりする。



「お湯に濡らしたガーゼで、目、鼻を拭いて、おでこからほっぺ、顎までを3の字を描くように拭きます。最後は耳ね。そして、沐浴用のベビーバスか、洗面台にお湯を張った中に~」


「いやー、い……」


 蓮の泣き声が、ピタリと止んだ。

 目を見開いて、硬直している。




「お風呂、好きなの~?」と助産師さん。


 なんだ? その顔!!



 口をすぼめて、『ほっ』って顔している。



 お母さんたちが、思わず笑う。


「いい子だね~」

 助産師さんが、ぷかぁと洗面台に浮かんだ蓮を洗っていく。


「石鹸をつけて、頭、首、腕、それから足を……」

 太ももに触れた瞬間、カエルみたいに曲がっていた蓮の足がピンと伸びた!



「あらぁ、洗いやすいように足伸ばしてくれてるの??」


 皆、爆笑。



 なんだ? こいつ??


 赤ちゃんって、泣くだけで何も考えていないと思っていたけど……




 変な生き物だ。



 不可解なところが、ちょっと可愛い。





 そうして。



 湯船から出た途端、「いやー、いやー」と、思い出したように、また激しく泣き出す蓮。



「そんなに、お風呂から出たくなかったの?」「いやぁ、いやー」

「嫌なの?」「いやー」

「はい、終わったからね。すぐおっぱいもらおうね」「いやー」



 こうして、蓮の沐浴は無事(?)終了した。



「いやー」と泣きまくる蓮に「もうすぐだからね、偉かったね」と呼びかけながら、個室へ急ぐ。




 早く返って、ミルクをあげよう。


 それから、夫に電話して、謝って、沐浴の話を教えよう。











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