結婚白書Ⅱ 【恋する理由】
男の人が 美味しそうに食べるのを見るのって好きだ
そう言えば 今まで付き合ってきた人 みんな大食らいだったな
妙な共通点を見いだして ククッと こらえるように笑った
そんな私を見て
「なにが可笑しいの? なんか笑われるようなことした?」
「違う 違う 美味しそうに食べるなぁと思ったの」
”美味しいから 美味しいって顔をしてんだけど” と
ちょっとふくれっ面で言い返してきた
場所が良かったのか 暇をもてあますこともなく魚がかかる
真剣な顔をして釣り竿を扱う姿
ちょっぴり”いいなぁ”と思った
「さぁ お待ちかね 活き作りだよ」
工藤君が 持参した包丁を取りだし 手慣れた様子で魚をさばく
一切れをつまんで これまた持参した醤油に ”ちょん ちょん” と
切り身の先をつけて私の口元に持ってきた
「ほら 食べてみてよ 産地直送 醤油は甘めの つけ醤油をご用意しました」
仕方なく口をあけた
彼の指まで唇に滑り込んでくる
刺身の味より そっちが気になった
だけど 彼に気づかれないように とにかく味を確かめる
「美味しい!コリコリしてる わぁ~感動!」
本当に美味しい
普段食べる刺身より歯ごたえがあり それが甘い醤油と良くあう
「でしょう?これが楽しみでやめられないんだよね」
そう言いながら 自分でも一切れ口に放り込んだ
そして また 私の口元にも次の一切れを差し出した
また 彼の指ごと口に入る
その指は 私の口の縁についた醤油をぬぐいさる
その何気ない 手慣れた仕草に つい余計な事を聞いてしまった
「工藤君 ずいぶん手慣れてるわね
彼女にもこんなことしてあげてるの? 彼女 いるんでしょ?
私なんかと遊んでていいの?」
彼の楽しげな顔が 一瞬曇った
「彼女 今はいないよ 別れてきた・・・」