ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
(……鳥井さん。まだ完全には油断してなさそうだな)
シャワーの水音が聞こえると、おれは体を起こして両手足の手錠を見つめる。
抵抗しなかったとはいえ、やっぱり手錠を手足に掛けられるのはつらい。
せめて両手だけだったら、今のうちにさっさと部屋を出て逃げることもできただろうけど、両足にまで手錠を掛けられるとなぁ。
だけど両足に手錠がなくても、部屋を出ようとしたら鳥井さんに捕まりそう。物音ですっ飛んできそうな気配あったし。
(ただ、鳥井さんはおれから目を放す機会も多くなった)
それはきっと、昨晩の出来事があるせいだと思う。
基本的に鳥井さんはおれが変な行動を起こさないよう、運転する時もご飯を食べる時も携帯を弄る時も、都度おれに視線を配っていたんだけど、今日はそれがあまりない。
おれを置いてお風呂に入ったことが良い証拠だ。
上下関係をつけたことで、おれの逃走するリスクが減った、と思っているんだと思う。
でも、まだ逃げ時じゃないかな。油断しているけど、完全に油断しているわけじゃないし……。
あと命令が多くなった。
こっちに来いとか、あっちのベッドで寝とけとか、許可なくベッドから下りるなとか、かなり命令口調になっている。上下関係があるのだと態度で示しているのかもしれない。
おれが心から言うことを聞くのは兄さまだけなんだけど、いまはおとなしく従った方が得策だ。
(……この後、お風呂に入れって命令されるかな)
だとしたら、ちょっとやっておかなきゃいけないことがある。
おれはズボンのポケットに突っ込んでいたレシートを取り出す。
これは昨晩、鳥井さんが会話用にくれたもの。大切にしているボールペンを取り出すと、おれは腕に刻まれた謎メモの内容をレシートの裏に書き写す。
すでに文字が薄っすら消えている謎メモは、兄さまや警察に伝えたい情報が詰まっている。価値がないものかもしれないけど、せっかくメモしたんだから、ちゃんと伝えたい。
メモを書き終えるとレシートを畳んで、ズボンのポケットへ。
その後は鳥井さんの言う通り、ベッドから下りることもなく目を瞑って、ちょっと寝ることにした。
思いの外、おれの神経は図太いみたいで、誘拐されている状況下にも関わらず睡魔はすぐにやってきた。ベッドがふかふかなのと、三日ぶりに広い場所で寝転ぶことができたことが眠くなった原因みたい。車の中で一日中過ごしているんだ。自分でも思っている以上に体が限界だったんだと思う。
気づくとおれは本気で寝てしまった。ガチ寝もガチ寝。
鳥井さんが部屋に戻ってきたことも気づかず、「そりゃ寝ろとは言ったが……」と、手前を刺した犯人が傍にいるのにも関わらず熟睡し切っているおれの図太さに鳥井さんが呆れていたことにも気づかず、ただひたすら貪るように眠りに就いた。六時間きっかり睡眠を取った。