ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
互角となったこの勝負は、鳥井さんがおれを蹴り飛ばしたことで勝敗が決まる。
無様に床に倒れたおれに盛大な舌打ちを鳴らし、鳥井さんは「グズグズしてらんねぇんだよ」と言って、おれの髪を鷲掴みにした。
「余計なことをしてくれたなガキ」
お前のせいで車はおじゃん。
警察は動き出すし、同業者がここを掴んで“横取り”を始めるし、ウチは大赤字も大赤字だと鳥井さん。従順になったと油断した途端これだ。無駄な労力を使わせるなと言って、思いきり腹部を蹴り飛ばした。
本当にむしゃくしゃしているんだと思う。
本気の蹴りを腹部にちょうだいしてしまった。痛いなんてものじゃない。呼吸が止まりかけた。
ほんと、お父さんといい、鳥井さんといい、どうして傷を縫った箇所を蹴り飛ばすんだろうね。弱点を突くのは攻めの基本かもしれないけど、相手はいたいけな中学生だよ。もう少し、手加減してくれてもいいのに。ついでにいっぺんこの痛みを味わってみたらいいのに。漏れそうなほど痛いんだからバーカ。
(ボールペンは……よかった、ある)
ちゃんとお揃いのボールペンは手の中にある。
これだけは絶対に手放さない。
これがあるからおれは頭を殴られずに済んだ。
おれは大きく咳き込み、腹部を押さえ肩で息をしながら鳥井さんを流し目にすると、ザマーミロと軽く舌を出した。
それによって多大な怒りを買い、これまた横っ面を殴られて胸倉を掴まれるけど、おれは鼻血を手の甲で拭きながら、負けじと相手に笑って口を動かす。
不思議なことに他人相手にぬるりと声が出た。
兄さま以外で声出せる時は、きっとおれから完全に恐怖心が消えた時なのだと思った。
「おれがいつ、暴力ばかり振るうあなたの言うことを聞くと言いましたか?」
おれは鳥井さんの言うことを聞くと言った覚えはない。
確かにおれは無様に殴られたし、スタンガンで感電させられたし、一方的に触れられたせいで敗北したけど、それだけだった。ちょっと泣き虫毛虫を出しただけ。暴力を我慢しただけ。機会がくるまで従った事実はあれど、それだけもそれだけ。勝手に言うことを聞くと勘違いしたのは鳥井さんの方だ。
ああすごくいい気分。騙せたのなら万々歳!
暴力ばかり与える人間が得をする現実なんて面白くもなんともない。
暴力を与えた分、たくさん損をしてほしい。そう思うのはおれの性格が悪いのかもしれない。
おれはもう一度ザマーミロと笑い、笑って、呆気にとられる鳥井さんの顔面に勢いづいて頭突きをすると、身悶える男の手から逃れた。
(アタタタ、おでこが割れそう)
思いの外、自分にも大ダメージを受けたおれは額をさすりながら、腹部を庇いながら鳥井さんと距離を取る。
さっきよりも逃げる足取りは遅いけれど、少しでも距離を取って時間を稼ごう。
そうすればきっと警察が、大好きな兄さまが助けに来てくれる。それまで、おれはおれのできることをしなきゃ。