ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
二階から一階に下りるために、急いで階段に向かう。
「――烏。お前のへっぽこさには本気で呆れている」
階段の手すりを掴んだ直後、背後から首の後ろを殴られる。
気絶こそしなかったものの視界がぐにゃりと歪んだ。おれは堪え切れず、手すりを掴んだままその場に座り込む。
後ろを振り返れば、白髪の男がおれの腕を捻りながら、苦い顔で鳥井さんに視線を投げていた。
三白眼を持つその男は鳥井さんの仲間、梟と呼ばれている男だった。そいつは顔をさすっている鳥井さんに向かって盛大なため息をつくと、「ガキひとりに、なに手こずっているんだ」と悪態をついた。
「相手は中坊だろうが。何しているんだ」
「うるせぇな。文句言うなら、お前がお守すりゃよかっただろうが」
「失態の言い訳は社長にしろよ。ご立腹だったぞ」
「……はあ、まじか」
「話は後だ。さっき同業者とかち合って、ひとり殺ったが、向こうの方は手数が多い。警察も此処に来ている」
「数はどれくらいだ」
「15程度。手数の多さが仇になったのか、不本意ながら警察の足止め役を買っていた。こっちとしては好都合だな。烏、さっさとガキを連れてズラかるぞ。横取りされる前に」
冗談じゃない。
いい加減、おれは兄さまの下に帰りたいんだ! 解放してよ!
おれは腕を捻ってくる梟さんの手を振りほどこうと躍起になった。絶対にお前達の言うことはきかないと意思表示をした。
すると梟さんは抵抗を「うざい」とあしらい、おれの頭部を持ち前の拳銃で殴りつけたうえで二回発砲。ひとつめ銃弾は脅し目的なのか、おれの首をかすめた。もう一発は右の太ももを銃弾で貫いた。逃走防止のために。
首から少量の血が、太ももから大量の血が流れる。その場に崩れてしまった、燃え上がるような痛みが右足を襲う。痛いとか、苦しいとか、つらいとか、そんなレベルのものじゃない。この痛みは腹部に刺された時の痛みに匹敵する。
とにもかくにも鳥井さんとは比べも物にならないほど容赦がなかった。ああもう、また車いす生活になるのかな。嫌なんだけど。
「おい。梟」
「動きを封じただけだ。命まで取ったら契約違反になる」
「……そうじゃなくてだな」
「これくらい平常にやれ烏。情けを掛けるから、仕事が滞るんだよ。運び出すぞ」
「ばか。出血が多くなるところを狙うなって言いたいんだよ。誰が止血するんだこれ」
「もちろんお前だ」
「そうくると思った。貧乏くじはいつも俺だ」
「おら、お前の銃。車は倉庫裏に停めた」
頭上で二人の会話が聞こえる。
朦朧とし始める意識の中、おれは震える手で手すりの柵に手を伸ばすと、それを抱えるように掴んで連れて行かれることを拒んだ。少しでも時間稼ぎになればいいと思った。