ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
もう少しなんだ。もう少しで兄さまに会える。
三日間、離れ離れになって気づいたよ。おれはやっぱり兄さまが大好きなんだって。そして兄さまはすごく頼れる人なんだって。
たとえば兄さまがいたら、攫われてもきっと要領よく鳥井さんから逃げ出す知恵を出していたと思う。攫われる前に鳥井さんなんて男、一発ノックアウトして警察に突き出していたかもしれないね。
非力で頼りなくて泣き虫毛虫。
そんなおれだったからこそ、三日間も離れ離れになってしまった。
その時間は暴力を振られる時間よりもずっとずっと苦痛だったけど、兄さまがどれだけ大切なのか、再確認したのも事実。
ああ、早く会いたいな。兄さまに会ったら、まずは「ただいま」って言って。それから頭を撫でてもらって。がんばったなって褒めてもらって。美味しいご飯をふたりで食べて。おやつなんかもつまんじゃって。ふたりで仲良くテレビを観て。いっしょにあったかいお布団で寝て。それから、それから。
梟さんがおれの異変に気づいて、「うざいガキだな」と言って、腕に拳銃の照準を定めた。
また発砲される――身構えたものの、それは杞憂に終わる。
理由は一階にいた人間が鳥井さんと梟さんに向かって発砲したせいだ。
同業者やら横取りやら言っていたから、たぶん二人の敵なんだと思う。
発砲された二人はぐったりと倒れているおれを置いて、古びた機材の陰に隠れてしまった。
おれもどこかに隠れたいけど、右足が思うように動かない。
仮にもおれを連れて行く予定なら、ちょっとは守ってほしいんだけど。散々人を痛めつけておいて勝手なんだから。さすがにこの扱いは怒っても許されると思うんだけど。
「何人だ?」
「分からん。烏は右を狙え。俺は左を狙う」
鳥井さんと梟さんが応戦するため拳銃を構えた刹那、一階にいた人間が突然倒れ、大げさな悲鳴を上げた。
一体何が起きたのか。鳥井さんと梟さんが手すりに近づいて、一階に視線を下ろす。
おれも体を引きずって、手すり下に視線を落とす。工場は吹き抜けになっていて、一階の状況をよく見下ろせた。
目を丸くしてしまった。
そして目を輝かせてしまった。
そこにいたのは、会いたくて会いたくて仕方がなかった兄さまの姿。夢じゃない。確かにいる。兄さまがいる!
兄さまは一階にいる人間を廃材で殴り飛ばすと瞬く間に組み伏せて、容赦なく腕をあらん方向に捻り上げた。
それに留まらず、悲鳴を上げる人間の顔面を踏みつけると、勢いよく右腕を、次に左腕を折って、泣き喚く人間の頭を蹴り飛ばす。
近くにいた仲間らしき人間が拳銃を向けるも、兄さまは全く動じることなく、廃材を投げつけ、相手が怯んだ隙に顎を蹴り上げた。
拳銃が床に落ちるとそれを拾い、軽くどう使うのか確認。
試し撃ち代わりに相手の足を狙い、躊躇いなくそこを撃った。
弾が二発しか入っていないことを確認すると、拳銃を相手の口に突っ込んだ。歯が折れたのか、相手の口は血まみれだった。
「弱い。なぶる価値もねえ」
一貫して無感情を貫く兄さまは、本当に容赦がなく、恐れを見せない。
己に向かって拳銃を向ける人間に狙いを定めると、発砲される前に懐に潜り込んで鳩尾に拳を入れた。倒れたところで、両腕もしくは両足を折りに掛かる。命乞いをしている人間がいても、泣き喚く人間がいても、「言うだけタダだ。言っておけ」と冷たく突き放すだけ。
あまりにも煩く声を上げる人間がいると、「指も折られたいならそう言えよ」と言って、本当に手の指をひん曲げてしまった。
おれも見たことがない、能面で冷たい兄さまの姿がそこにはあった。