ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
「誰だあいつは……同業者、か?」
梟さんが眉根を寄せる。
血相を変えたのは鳥井さんだった。
「あれは下川治樹。弟のためにここまで来たのか。ただの大学生だって聞いていたが……あり得ねえ。あいつが相手にしているのは俺達と同業者の人間だぞ」
やることなすことカタギの人間がやる行為じゃない。
下手な新人同業者よりも、やっていることが暴力染みている、と兄さまの非道っぷりに固唾を呑んだ。もしも兄さまに斧でも持たせたら、当たり前のように腕や足、指を切り落としてしまうのではないだろうか。
そう錯覚させるほど、兄さまはヒトを傷付けることに躊躇いがない、と鳥井さん。
「所詮、大学生なんだろう? 足を狙う」
梟さんが銃口を向け、兄さまに照準を合わせた。
「ばか。刺激するな」
止める鳥井さんを押しのけ、おれは持ち前のボールペンで梟さんの右腕を突き刺した。右太ももから大量に出血しているだとか、燃え上がるような痛みが走るだとか、そんなのは関係なかった。
大切な人が撃たれる、その現実がおれを突き動かした。
「兄さま、避けてくださいっ!」
――ガウン。
工場内におれの声と、梟さんの放った銃声が響き渡る。
拳銃の照準をずらすことに成功したおかげで、梟さんの銃弾は天井へ。おれは鳥井さんから横蹴りされて、向こうに転がった。太ももから大量に血が出ているせいで、床にべったりと直線状の血痕が付着する。
「ガキっ!」
「待て、梟! ガキを殺すな!」
頭に血がのぼった梟さんがおれに拳銃を向け、鳥井さんが大慌てでそれを止めた。
寸時のこと。
梟さんの顔面に廃材が投げられる。機械の部品らしきそれは、梟さんの右目を直撃。尖った部品が眼球を貫く瞬間を、おれや鳥井さんは目の当たりにしてしまう。惨い光景だった。
言葉を失うおれ達を余所に、右目から血を流れ、梟さんは野太い声をあげる。
その口に目掛けて、右膝を入れたのは階段を駆け上がってきた兄さまだった。あの一瞬に、階段を駆け上って来てくれたんだ。
梟さんは兄さまに顔面を蹴られても強靭だった。
怒りの矛先をおれから兄さまに変えると、迷わずに拳銃を向けて発砲。それは兄さまの頬をかすめる。兄さまの能面は崩れることがなかった。
「こいつ。恐怖心ってのがないのか」
梟さんに発砲されても、まったく感情を出さずに食って掛かる兄さまは明らかに押している。
目の前にいる梟さんに「弱い」と言って、懐に入るや手の甲で鳩尾を強く突いた。
梟さんは拳銃の柄で兄さまの攻撃をガードしていたけれど、すかさず兄さまは相手の手首目掛けて拳を振り下ろし、拳銃を手放させたところで踵を横っ腹に入れた。梟さんの身を向こうのドラム缶山まで追いやっていた。正直、兄さまの相手にならなかった。
なおも相手に休息を与えず、兄さまは梟さんを追い詰めるため、頭を掴んで力任せに床に叩きつけた。
反撃に蹴りをちょうだいしても、表情ひとつ変えない。頬に拳を入れられても、切れた口端を舐めて終わるだけ。痛みも恐怖も一切感じていないようだった。