ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
(……つよい)
おれは呆気に取られてしまう。
兄さまは喧嘩が強いと言っていた。
だから、たぶん強いだろうな、とは思っていたんだけど、実際に喧嘩を見たのは初めて。ここまで強いとは知らなかった。
だけど……どうしてだろう。大きな不安に駆られた。こんなに無感情な兄さまは見たことがない。まるで人間を捨てている。ちっとも兄さまらしくない。兄さまらしくないよ。
「だから刺激するなっつったんだ。あーくそっ」
こうなればイチかバチかだと唸り、鳥井さんはおれの腕を捻ると頭に銃口を押し付けて、兄さまの動きを封じに掛かる。
ドラム缶のふちで梟さんの頭部を殴り、相手をノックアウトさせた兄さまは、鳥井さんの行動に片眉をつり上げて、こっちを見つめる。
鈍感なおれはここでようやく人質になったのだと気づき、自分が兄さまの弱点になっている状況に青ざめた。
ふざけるな。撃ちたきゃ撃てよ。意味合いを込めて身を捩り、激しく暴れ回る。腕を捻られる力が増しても抵抗は止めなかった。兄さまが怪我をする状況が嫌で仕方がなかった。
「お前が鳥井か?」
兄さまが問うと、鳥井さんが「そうだと言ったら?」と煽るように返事した。
あの時の通り魔事件の男なのか、という問いに肯定。
弟を攫ったのはお前なのか、という問いに肯定。
弟を攫った三日間何をした、という問いに「調教を少々」。
最後の返事に兄さまの表情が動く。調教の意味を問うと、「お前が弟にやったことと同じことだ」と鳥井さんは兄さまを挑発する。鳥井さんは動揺を誘おうとしている。素人のおれが見てもそれは明らかだった。
だから、おれは「終わったことですから!」と声を張って会話を遮る。だけど、鳥井さんは言葉を重ねる。
「意外だったな。お前がまだ弟に手を出していないなんて。こいつ、びぃびぃ泣きじゃくりながら縋ってきたぜ。他人に触れられるだけで吐くよう調教していたくせに、奥手なんだな。下川治樹」
「……那智を犯したと?」
「手垢をつけられた弟はお前にとって価値があるのか?」
兄さまがおれに視線を投げた。
真偽を見極めようとしていると気づいたおれは、少しだけ間を置くと泣き笑いで誤魔化す。
うそは兄さまに通用しない。うそを言ったら、兄さまは傷付く。
かと言ってなんて返事をすればいいのか分からなかった。
犯されたほどじゃないけど、まあ触られたよね。と言うべきなのか、手垢をつけられてごめんね。なのか、価値が無いなら無いとハッキリ言っていいからね。なのか、それとも抵抗したけど敗北しました。と素直に白状すればいいのか。
どの返事にしろ、兄さまを不快にさせるのは明白。
だけど、そうだね、これだけは伝えたいかな。