ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
「兄さまだけが、いつもおれを、対等な人間としてみてくれた。だから、同じじゃない。兄さまは鳥井さんと違う。ぜったいに」
かまびすしくドラム缶を拳で殴り、兄さまは烈火の如く怒りをあらわにした。
おれの返事が引き金になってしまったようだ。鳥井さんは動揺を狙い目にしているのに……!
「鳥井。俺はテメェに感謝する必要があるようだ。那智は俺以外の人間に触れたことがねえ。結果的にそれが他人に触れられるだけで吐くようになっていたのなら、俺の教えは那智に行き届いていた証拠。俺は那智に良い子だと、たくさん褒めてやらなきゃならねえ。俺自身じゃ知る術がなかった。それについては感謝するぜ――だから」
鳥井さんが感情を見せた兄さまに銃口を向けた、その刹那、兄さまは体を反らして銃弾を避けると、口角を持ち上げて綺麗に笑う。
「礼といっちゃなんだが、苦しんで死ね。痛めつけられる恐怖を持って死ね。楽に逝けると思うなよ」
「避けやがったっ、化け物かよこいつ」
鳥井さんは血の気を引かせると、こっちに向かって来る兄さまの気を逸らすため、おれの身を抱えて手すりの向こうに投げた。
突然のことに抵抗すらできなかった。
重力に逆らって落ちていくおれの目に映ったのは、タッチの差で顔面に肘を入れられる鳥井さんと、素早く手すりに足を掛けておれの後を追う兄さまと。それから、ああ、それから。
強い衝撃が背中に走って、視界は真っ暗になった。何も見えない。息もできない。真っ暗も真っ暗、まっくら。
「おい那智! 那智! ……気を失っているだけか。こんなにぼろぼろになって。がんばったな、那智」
世界は真っ暗でも耳だけは音を拾っていた。
兄さまは仕方なさそうに笑っているようだった。
「ブサイクになっている」とおれの顔に感想を述べて、頭を撫でて、がんばったな、と褒めてくれる。
そりゃあ急斜面を転げ落ちたり、たくさん殴られたり、抵抗したせいで、ひどい顔になっていると思う。それでも兄さまに、「がんばったな」と褒められるだけで今まで我慢したものが報われた気がした。
この瞬間がおれは大好きなんだ。
兄さまに「がんばったな」と言われるだけで、自分が誇らしく思える。
「少しだけ待ってろ。すぐに終わらせてくるから」
兄さまはおれに上着を掛けたのか、お腹から肩に掛けて、ぬくもりを感じた。
少しだけ待ってていてほしい、と言って、おれから離れて行く気配がする。見えなくとも音で分かる。
ああ、どこ行くの兄さま。行かないで。三日間、離れ離れになっていた分、いっしょにいようよ。いっぱい甘えさせて。そして甘えてよ。
ねえ兄さま。兄さま――……。