ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】

【下川治樹の日記-19~21日目/365日-】



【19~21日目/365日】


少しの間、那智の代わりに日記を綴る。
毎日のように日記を書いていた那智の代理だ。

日記を開いた時、那智がこれを見たら驚くんだろうな。
俺からのちょっとしたサプライズってことにしてくれ。
交換日記ほどじゃねえが、せっかく日記を共有しているんだ。
俺から見た日常を那智に読んでもらうのも、たまには悪くねえだろ?

日記には正直な気持ちを正直に綴っておく。
那智にそうしてほしいんだ。
兄貴の俺がそれをしねぇでどうするんだって話。

ただ心配なのは、那智は致命的に漢字ができねえ。
まじでびっくりするくらいに。

先んじて難しい漢字にはフリガナを振っておいてやるけど……。
那智、頼むから、もう少し勉強しておけよ。



◆救急病院の話
鉄工場廃墟から救急病院に運ばれた那智は低体温症に(かか)っていた。
体の震えが止まらず、自力で体温をあげることが難しい状態だった。
幸い、意識はハッキリしていたから、俺が言葉を掛けると反応していた。

暴行については腹部に激しい殴打(おうだ)の痕と火傷の痕があった。
殴打(おうだ)の痕は分かるが、火傷の痕は思い当たる節がない。
付き添いの勝呂に聞くと、「スタンガンだと思われます」と返事をもらう。

目の前が真っ赤に染まった。
やっぱり鳥井は殺しておくべきだった。くそったれ。

手術した傷口にもそれが見受けられたものの、大事には至っていない。
意外と那智は丈夫な方みてぇで骨折の心配もなかった。
俺が那智を蹴ったこともあって、すげぇ心配していたんだが……。

那智曰く「お母さんの暴力より全然平気」だと笑った。
暴力に対して耐性があるのは俺だけじゃなかったってことだな。

医者から殴打(おうだ)の痕がひどいから数日間、絶対安静だと告げられた。
右太腿(みぎふともも)の負傷についても、数日間は動かさないように言われる。
拳銃で撃たれたんだ。当然だろうの診断だろう。
那智は嫌がるだろうが、もうしばらく車いす生活は続けてもらおう。

数時間、救急病院で過ごした後、那智は入院している病院に戻った。

その頃には那智は深い眠りに就いていた。
少し見ない間にずいぶんとやつれていた。

本当に那智はぼろぼろだった。
それでも俺の下に帰って来ようと一生懸命、自分にやれることをしたにちげぇねぇ。
那智、がんばったな。いい子。すげぇいい子。

◆この日食べた飯
無糖の缶珈琲三本。
那智と一緒じゃねえと飯を食う気になれねえ。

俺とは対照的に、那智は食欲があったみたいだ。
点滴中「あったかいお味噌汁が飲みたい」と言っていた。
あと甘いものが食べたいみてぇで「チョコレートが食べたい」と言っていた。
元気になったら一緒に食おうな。
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