ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


(……最近兄さまの様子が、ちょっとおかしいのも心配だ)

 兄さまはおれが寝る頃合いを見計らって、夜な夜な病室内にあるトイレに籠っていた。
 一日二日程度ならお腹の調子が悪い、で終わるんだけど、毎晩のようにトイレに籠る。しばらくすると話し声が聞こえるから、どこかに連絡を取っているみたい。

 今のところ、気づかないふりをしているけど、兄さまは一体何をしているんだろう?

(おれの知らないところで無茶をしていないといいけど)

 弟が立て続けに事件に巻き込まれている。
 これ以上、弟を巻き込まないようにと、おれに(さと)られないように行動しているのだとしたら、すごく心配だ。兄さまってそういうところあるから。

(誘拐された事件、あの事件はたぶんお父さんが絡んでいる。兄さまに福島道雄を尋ねた時、お父さんとは別人だとハッキリ言われたけど……たぶん兄さまはうそをついている。福島道雄は下川道雄と同一人物だ)

 騙されているふりを続けているのは、兄さまに余計な心労を掛けないため。
 おれが根掘り葉掘り聞き始めると、兄さまは巧みなうそでおれに『勘違いだ』『偶然だ』『兄さまに任せておけ』とはぐらかすに違いない。一方で弟が勘付き始めている。どう誤魔化そうか、と悩むに違いない。

 兄さまのためにも、いまは騙されたふりを続けるのが最善の策だと思っている。


「那智。着いたぞ。降りれるか?」


 ぼうっとしていたら、いつの間にか警察署に到着していた。
 おれは兄さまに大丈夫と何度も頷いて、座席の下に置いている松葉杖を拾うと覆面パトカーから降りた。
 案内人の勝呂刑事の後ろを歩き、おれと兄さまは警察署へ。応接室に案内されると、益田警部と柴木刑事が革製のソファーに座っていた。おれ達のことを待っていた。

「よう坊主。退院おめでとうさん」

 開口一番、挨拶代わりに退院お祝いの言葉をくれたのは益田警部だった。
 遅れて柴木刑事が退院お祝いの言葉と、クッキー缶をプレゼントしてくれた。

 おれは二人に頭を下げて、掠れた音を数回出した後、「ぁ……りと……ぅ」と自分の言葉で感謝の気持ちを表す。

 いまも他人とは筆談でしか会話できないけれど、特定の人間に対しては短い単語で会話することが叶っている。
 今のところ益田警部が対象だ。

 兄さまと比較したら、全然会話できないし、筆談の方が早いんだけどね……。
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