ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
益田警部と会話が交わせるようになったのは、たぶん警部が心を殺した兄さまを本気で心配し、暴走に近い行動を止めてくれていた姿を目の当たりにしたからだと思う。
心を殺した兄さまは本当に能面で、目の前の敵だけを排除する姿勢を見せていた。
益田警部はそんな兄さまに、元通りの日常に戻れなくなると必死に説得していた。身を張って説得していた。自分を顧みずに説得していた。
他人にあそこまで説得できるなんて普通できないこと。
どれだけ益田警部が兄さまを心配していたのか、子どものおれでも分かったよ。
だからこそ、心のどこかで益田警部は大丈夫かな、と思えるようになって、単語程度の会話ができるようになったんだと思う。
他人を信用するなと口酸っぱく言われているけど、益田警部なら……ちょっとは信用してもいいかなって。
兄さまが聞いたら怒るだろうから、口が裂けても言わないけど、益田警部はドラマでよく目にする良いお父さんって感じがするんだ。ちょっと前だって、泣いているおれに対して、励まして、どうすればいいか自分で考えなさいと助言してくれたし。
なにより益田警部は何が遭っても、おれと兄さまに接する態度を変えない。
それは人としてすごいことだと思う。
おれのお父さんも良いお父さんだったら、益田警部のような感じだったのかな?
益田警部がお父さんだったら良かったのにな、と思うこともある。兄さまは絶対に嫌がるだろうけど。
(益田警部以外の人達とも話せるようにしなきゃ)
ちょっとずつ他人と会話する練習をしようって決めている。
じゃないと、誘拐事件の時みたいに痛い目に遭ってしまう。
誘拐されたあの日あの時あの瞬間、声が出ていれば三日間、兄さまと離れ離れにならなかったんだから。そこはおれがちゃんと改善しなきゃいけないところだと思っている。反省しなきゃいけない。
「益田、今日は手短に済ませてくれ。この後、向こうのアパートに行って荷物の整理をしなきゃなんねえ」
おれの介助をしながらソファーに腰掛けた兄さまは、不機嫌を全面的に出しながら話を切り出す。
あの事件以来、兄さまは警察関係者に対して、露骨に無愛想かつ不機嫌な態度で接することが多くなった。
それは兄さまと警察の間に決定的な衝突があったせいだ。
(兄さまは鳥井さんを含めた輩達を、容赦なく病院送りにした。そのせいで重傷を負った鳥井さんの取り調べが上手く進んでいない。警察としては、余計なことをしてくれたと思っているはず。対照的に兄さまは鳥井さんの処遇に納得がいっていない。それが衝突の原因になった)