ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


 入院している間、鳥井さんのことはまったく耳に入らなかったけれど、口が利けないほど重傷で取り調べどころじゃないのは知っている。
 鳥井さんがどこの誰なのかも分からない状態なんだって。
 いずれ正体が明るみに出るだろうけど、時間を要するだろうと話を聞いた。

 幸い、兄さまの行いは警察にお灸を据えられて終わっている。

 表沙汰になっていないのは、おれの関わる事件ひとつひとつに強い話題性があるせいだ。

 ストーカー事件から始まって、通り魔事件、傷害事件、これらは世間に公開された情報で報道陣が一斉に取材を始めた。
 それによって明かされた警察の失態とおれと兄さまの家庭事情。いまも記者がうろついているのに、誘拐事件と兄さまの件が表沙汰になれば、世間から大バッシングを受けている最中(さなか)の警察はてんてこ舞いになってしまう。

 極力、騒ぎにならないように、病院送りの一件はもみ消されたんだろうと、兄さま自身が教えてくれた。

 おれは眉根を寄せて苛々している兄さまを一瞥する。
 びっくりするくらい不機嫌だ。 
 一瞬にして応接室の空気が悪くするくらい、本当に不機嫌。

「相変わらず、苛々してんな兄ちゃん。機嫌直せって。飴ちゃんでもやろうか?」
「一々うぜぇなお前。いらねえよ」

 兄さまは警察、特に益田警部には突っぱねる素振りばかりみせる。

(……兄さまは益田警部を物凄く苦手にしているもんなぁ) 

 助言や心配を寄せられても一蹴することが多い。苦手がゆえの態度だと思う。

 とうの益田警部は「反抗期を迎えた息子を見ている親父の気分だぜ」と言って笑っていることが多い。うーん、相性の問題かもしれない。突っぱねられても平然と笑う益田警部に対して、兄さまは舌打ちばかり鳴らしているから。

「しゃーねえな。坊主、ほらこれ。兄ちゃんに渡してくれ」

 益田警部がおれにイチゴの飴玉を二つ手渡してくる。
 眉をつり上げる兄さまに対して、「兄ちゃんと分けて食べな」と益田警部は含み笑いを浮かべた。
 なによりも半分こが大好きなおれは、さっそく飴玉と兄さまを見比べて一つを兄さまに差し出す。
 間髪を容れず「全部食べて良いぞ」と突っぱねられてしまった。半分こした方がおいしいのに。

 しょんぼりと飴玉を見つめていると、兄さまが低い唸り声をあげて、「一個兄さまにくれ」と右手を差し出した。

 そうこなくっちゃ!
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