ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】

 
 新しい住居に着いたのは夕まぐれ。
 以前暮らしていたアパートよりも、ずっと綺麗で洋風に二階建。防犯重視のオートロック付きの1LDK! ベランダ付き!

 見るからに家賃が高そうなアパートだけど、兄さま曰く、民間シェルターとして利用されているアパートの一つを警察伝手に支援団体から借りたそうな。経済面諸々考慮してもらい、前暮らしていたアパートと同じくらいの家賃にしてもらったとか。

 とりあえず事件を片して生活が落ち着くまで部屋を借りることができたらしい。1年は安泰だって言っていた。

 民間シェルターとして利用されているだけあって警察署からも近く、何か遭ったらすぐに警官が駆けつけられる距離にアパートは建っていた。それこそ目と鼻の先の距離、五分程度の距離だ。

 おれ達の部屋は一階の104号室。西側の隅にある部屋が新しい住居になる。

「はあ。結局夕方まで掛かったな。荷物の整理があるって言ったのに」

 心底くたびれている兄さまの隣で、おれは目を輝かせた。

「前のお部屋より綺麗ですね兄さま。ベランダがある!」
「あ、ばか。走るな。転ぶぞ」

 部屋に入ったおれはさっそく松葉杖をつきながら、リビング、キッチン、寝室、お風呂場を見てまわる。

 シェルターとして利用されているだけあって、大体の家具は揃っていた。たぶん備え付けなんだろうね。ソファーやベッドなんかもあった。すごいすごい。

 それに加えて、ワックスの利いたフローリングや真っ白な壁。錆のない小さなキッチンにお風呂。うん、前のお部屋も良かったけど、今のお部屋も好きになりそうだ。ちょっとしたホテルに来た気分になる!

 窓をあけると日当たりの良いベランダが顔を出した。
 兄さまの気遣いなのか、すでにベランダにはハーブが置いてある。バジルだ。
 おれが育てていたバジルではないことはひと目で分かったけれど、少しでも元気を出してもらおうという兄さまの気持ちが見て取れた。素直に嬉しい。おれのために買ってくれたのかな。

「兄さま。これは兄さまが……」

 バジルの植木鉢を持って、リビングにいる兄さまにありがとうを伝えようと振り返り、その言葉は胸に仕舞った。
 植木鉢を元の場所に置くと、音を立てないように窓を閉めて、ソファーに腰掛けている兄さまの隣に座る。

「お疲れさま。兄さま」

 兄さまは背もたれに寄り掛かってうたた寝を始めていた。
 新しい生活を始めるために、連日警察署や支援団体に赴いたり、夜遅くまで書類と向き合ったり、おれの知らないところで疲労困ぱいしていたんだと思う。

 弟の前じゃ弱音のひとつも吐かなかったけど、慣れない書類手続きに、内心勘弁してくれって思っていたんじゃないかな。
< 241 / 293 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop