ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
(兄さまは傍から見たら難のある性格で、他人に対して暴力を振るうことに躊躇いがない。周囲からしたら敬遠される人間なのかもしれない。だけど兄さまは優しい人だ。自分の時間を犠牲にして、弟を守ってくれる努力家だっておれは知っているよ)
いつもそうだ。
兄さまは自分の時間を犠牲にして、おれを守ってくれる。
実家にいた時だって、いまだって、これからだってきっと――早く大人になりたい。大人に頼れない兄さまが、こいつなら頼れると思える人間になりたい。ううん、なれるように努力しなきゃ。兄さまが努力した分、おれも努力をしたい。
そっと兄さまの頬に触れた後、愛情表現を示そうと思い立ち、相手の唇を親指でなぞって、結局何もできずに終わってしまう。
(ちゃんとあのことを話してからじゃないと……いまのおれじゃ触れられない。ばっちいかもしれないし)
泣き笑いを浮かべると、おれは兄さまの顔から手を離して、毛布を取りに寝室になる予定であろう洋室に足を運ぶ。
(夕飯になりそうな物がないか、後でキッチンを見てみよう。インスタント麺があればいいけど。あれ?)
ベッドのうえに畳まれた毛布を掴もうとして、その手が止まる。
松葉杖に何かが当たった。
ベッド下からはみ出ている段ボールに当たったみたい。衣服が入った段ボールなのかな?
おれは片手で段ボールを引っ張る。びくともしなかった。
「え、重すぎない? 何が入っているのこれ」
松葉杖を置くと、その場に座って段ボールを両手で引っ張る。じゃらり、じゃらり、と金属の鳴る音が聞こえた。
「やっと引っ張り出せた。えーっと中身は」
段ボールを開けると、ぎっしりと分厚い教科書や参考書が入っていた。
ああ、なるほどね。兄さまが大学で使う教材が入っていたんだ。下の段にはおれが使っている教材も寝かされる形で詰め込まれている。この段ボールは教材関連が入っているのか。どうりで重かったはずだよ。
だけど段ボールを動かす度にじゃらり、じゃらり、と金属音が聞こえるのは何だろう? 他に何か入っているのかな。
「兄さまの期待を返せよな。那智」
金属音の正体を確かめるために、大学の教材を退かしたその時、背後から腕を回された。
振り返ると、うたた寝していたはずの兄さまが子どものように拗ねている。どうやら狸寝入りしていたみたい。それとも、顔を触った時に起きたのかも。兄さまは寸止めにされてとても不満だ、と唸った。
「那智ならべつに触ってくれてもいいのに」
拗ねている兄さまに苦笑いを送り、おれは段ボールに視線を戻して目を伏せる。
「まだ、ちゃんと兄さまにあの時のことを話していないから。触れちゃだめかなって」
「鳥井のことか?」
「……自分が気持ち悪いんです。汚いというかなんというか。兄さまはウンコのついた手で触れられたいと思います? いまのおれって、たぶんそんな状態ですよ。ばっちいですよ」
鳥井さんに触られたって、つまりそういうことだと思う。
おれは兄さまに、早口で鳥井さんから押し倒された顛末を語った。
それこそ調教目的でおれを押し倒したところから、キスされてげぇげぇ吐いたことから、前戯で気をやってしまったところまで。死ぬ気で抵抗しても力負けしてしまったおれは、敗北する道を選んで、相手の隙を突く作戦に変えた。結果は大成功だったけど……その時はあまり心に思うことはなかったけど……今思い返すと、やっぱり他人の手で感じた自分がキショイ。