ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
6.(元)通りの新たな生活と怪物-弟-
【6】
(もう二度と、兄さま以外の人間と触ることは無理だろうな)
嵐のような触れあいを終えたおれは、汚れた体を清めるため湯船に浸かっていた。
右太ももを負傷している手前、シャワーで済ませた方がいいと思うんだけど、どうしてもお湯に浸かりたい気分だった。
だから右太ももはラップで二重三重、飛んで五重に巻いている状態。これが結構便利で殆ど右太ももの傷にお湯が浸透することはなかった。それこそ体を洗っている間も、太ももを気にせずに洗える。ラップって超便利だ。
現実逃避のようにラップを巻いた右太ももを見やり、おれはひとり苦い顔を作った。
(……軽く死にたい気分なんだけど)
兄さまに触れる、触れられる、に対して死にたいと思っているわけじゃない。
あれは合意の上だからべつにいい。おれだって望んだわけだしね。
血の繋がった兄弟だから云々って気持ちもない。何をしても兄弟以上にも以下にもなれないって思っているから、それこそセックスをしたところで後悔はしないと思うんだ。けど、けどぉ!
まさか兄さまにあれやこれやと意地悪されるとは思わなかった。
そして、気色悪い声を出して、兄さまになきながら縋る羽目になるとも思わなかった。
うう、死にたい。軽く死にたい。消えたい。兄さまを残して消えることなんて無理だけど、羞恥心でどうにかなりそう。
(そもそも、兄さまがあそこまで意地悪するから)
八つ当たりしたいような気持ちに駆られつつ、おれは兄さまとの触れ合いを思い出す。
兄さまとの触れ合いに「気持ち悪さ」も「恐怖」もなかった。むしろ、鳥井さんの時には感じなかった多幸感を抱いた。相手は血の繋がった兄だけど、ううん、兄だからこそ……多幸感を抱いたのかもしれない。
それを知ってしまった手前、他人と触れ合うことは二度と難しいと思う。
とはいえ、触れ合いとは名ばかりで、一方的におれがあれでそれでムチャクチャになったんだけど、兄さまは良かったのかな。おればっかりで、兄さまにはあんま触れなかったから。
こういうのってお互いに気持ち良くなってこそ、だと思うんだけど。
お風呂からあがったら兄さまに聞いてみようかな。
(そろそろあがろう……あれ)
湯船からあがろうとしたおれは、なるほど、と一つ頷いて千行の涙ならぬ千行の汗を流す。
そっかそっかそっか。
入院生活が長かったせいで、すっかり忘れていたけど、一般家庭の浴槽って段差がないんだよね。入院中の浴槽は段差があったから、足を怪我していても、段差を駆使して無理くり自力で立ちあがっていたけど。
さて、どうしよう。おれは浴槽の縁を掴んだまま顔を顰める。
とりあえず非力の腕で体は持ち上げ、持ち上げ……持ち上がらない。足に力をいれようとしても滑る。
せめて手すりがあれば良かったんだけど、それもないとなると、這いつくばるように浴槽から出るしかないかな。
いやでも、這いつくばって浴槽から出たとしても、立ちあがれないんじゃ一緒だよな。
松葉杖は洗面所に置きっぱなしだから、それを手繰り寄せればワンチャン? 兄さまを呼ぶのも手だけど、これくらい自分で乗り切らないでどうするのって話。兄さまだって連日、慣れない書類手続きとかあったんだから、おれのことで手を煩わせるわけにはいかない。