ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
もう一度、浴槽の縁を掴んで腕の力だけで体を持ち上げようと力む。
どうにか浴槽の壁を乗り越えようと負傷していない左足を引っ掛けて、腕に力を込めた次の瞬間、つるっと滑って浴槽の縁に腰を強打。そのままお風呂場のタイルに尻もちをついてしまった。
勢い余ったせいで、お風呂場に置いてあるシャンプー容器等などを蹴っ飛ばすわ、扉も蹴っ飛ばすわ、浴槽の縁に腰を強打したせいで、土器で殴られたような鈍い音が浴室に響くわ。散々だった。
あと冗談抜きで痛い。立てる立てないの問題じゃない。死ぬほど痛い。
「那智。風呂場からすげぇ音が聞こえてきたぞ。大丈夫……お前、何やってんだ」
浴槽の縁に足を引っ掛けたまま、腰を押さえているおれに兄さまが遠い目を作る。
察しの良い兄さまはおれが浴槽から出られず、悪戦苦闘した末の惨状だと気づいたみたいで、盛大にため息をついた。
いやあ、ほんと笑える光景だと思うよ。素っ裸の14歳が仰向けのまま腰をさすっているんだから。
「だからシャワーにしろっつったのに。頭ぶつけてねえか?」
「……腰が終了しました」
「ったくもう、お前は兄さまの手を焼かせる天才だな。とりあえず起こすぞ」
「アダダダ、兄さま! ゆっくりっ、腰! 腰が!」
「何をどうしたら、腰をぶつけるんだよ」
兄さまはおれの身を軽々と持ち上げると、洗面所で体を拭いてくれる。
ついでにシャツやパンツも穿かせてくれた。
久しぶりにやってもらったよ。こんなこと。
昔はよくやってもらっていたけど、まさか中学生になった歳でやってもらうなんて。
少しだけ懐かしい気持ちになる。
おれのお母さんはちっともおれを面倒看てくれなかったけど、その分、兄さまが面倒看てくれたんだよな。それは昔もいまも変わらない。兄さまがおれのお母さんと言っても過言じゃない。
兄さまは未だ腰をさするおれを見かねて、リビングまでおんぶしてくれた。何から何まで申し訳ない。
「で、何してたんだ?」
ソファーのうえにおれの身を寝そべらせた兄さまは、軽くおれの腰を叩いて当時の状況を聞いてくる。
羞恥心を噛み締めながら事の経緯を話すと、「そこは素直に俺を呼べよ」と呆れられてしまった。
「出られないと分かった時点で、俺を呼べば終わった話じゃねえか。危ねえな」
「うう。こんなに非力だと思わなかったです。入院中は自分で立ちあがれたのに」
「そりゃ浴室にバリアフリーがあったからだ。風呂の事故ってのは高齢者ばっかり目立つが、じつは若者にも多いんだぜ?」
強めに腰を叩かれ、おれは悲鳴を上げる。
シャツとパンツをめくられると、「青タンは覚悟だな」と言われる始末。
せっかく退院したのに早々に怪我をするなんて! 自分のアホさに泣きたい。恥ずかしい。死にたい。