ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
「那智。お前は何度もボールペンを使って、鳥井達の手から逃れたと聞いている。今回はそれで助かったが、所詮ボールペンは文具に過ぎない。いつも俺が傍にいるとも限らない。手前の身は手前で守れ」
やられる側の人間じゃなく、やる側の人間になれ。
兄さまは折り畳み式のナイフをおれの手に置くと、「やられる側は損になる。分かるな?」と問うた。
何度も首を縦に振ると、兄さまはいざという時の切り札に取っておけ、と言っておれの頭をくしゃくしゃに撫でた。
(いつか……使う時が来るのかな)
兄さまからもらった折り畳み式のナイフはよく砥がれていた。
これを使う日が来ないといいな。
やられる側が損なのは分かっているけど、やる側の人間になれるほど、おれは強くないから。
午後22時過ぎになると、おれの瞼がうつらうつらと閉じ始める。
せっかく退院したのだからもっと好き勝手にテレビを観たいし、携帯だって弄りたいし、兄さまと沢山おしゃべりをしたいんだけど、病院から調合してもらった薬を呑んだせいか、強烈な睡魔が襲ってきた。
どうにかこうにか日課にしている日記は書き終えたけど、ちゃんと文章になっているかな?
絶えず目をこするおれの様子を兄さまは見逃さず、テレビを消すとおれの身を抱えた。
「眠いんだろ? もう寝ろ」
「んー。でも……まだやりたいことが」
「明日にだってできる。お前は退院したんだ。明日から何をしたっていい――俺の傍だったら何をしたって」
しょぼしょぼとする目をこすっている間も、兄さまは問答無用でおれを寝室まで運んだ。
ベッドに下ろされると、瞼が半分も開かなくなる。
すごく眠い。全身が重くなるほど眠い。全然からだが動かない。
変だな、薬の副作用にしては眠気がすさまじい。
兄さまはそんなおれに微笑むと、ベッド下から段ボールを取り出して、何やらガサゴソと物音を立てる。じゃらり、じゃらり、と音が聞こえた。
この音は夕方に聞いた、段ボールから聞こえてきた音だ。
「予定は首だけに付ける予定だったが……」
じゃらり、と耳元に聞こえる正体はチェーンだと気づく。
どうしてそんなものを用意しているの兄さま。
「念には念を入れて、足にも付けた方が良さそうだな。寝苦しかったら言えよ。調整してやっから」
二本の長いチェーンを持った兄さまは一本をDカンとチェーンを繋ぎ合わせ、片側はベッドの脚にぐるぐると結びつけて南京錠を。もう片側はおれの左足首に巻きつけて南京錠を掛けた。
それが終わると、もう一本のチェーンを用意し、同じくDカンとチェーンを繋ぎ合わせた。
そしてまた片側はベッドの脚に結びつけ、片側はミニクリップを繋ぎ合わせたうえで、首のチョーカーのつなぎ目にそれを引っ掛けてしまう。
拘束されたのだと気づいた。
「寝苦しくないか?」
夢うつつに入り始めたおれは、兄さまの問い掛けをぼんやり聞きながら、軽く首を横に振る。
寝返りを打つ度に少し重みを感じるし、背中にチェーンが入り込むと食い込んで痛いと思うことはあるけど、我慢できないほどじゃない。
心配事があると言えばトイレに行く時だけど、兄さまに言えば外してもらえるはずだよね。たぶん。
「これから部屋にいる間、お前をチェーンで繋ぐ。南京錠の鍵は俺が持っているから、外してほしい時は俺に言え」
「ずっとこのまま?」
「んー、少なくとも生活が落ち着くまでは」
兄さまはおれの頭を優しく撫でると、「悪いな」と言って、この状況を簡潔に説明した。