ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
「簡単にお前を誘拐させないための防犯対策だと思ってほしい」
これ、防犯対策なんだ。
すごく原始的というか、物理的というか、強硬手段を取った防犯対策だと思う。
「俺は那智が本当に大事なんだ。誰にも盗られたくねえ」
「じゃあ、兄さまも防犯対策した方が」
「俺はお前と違って喧嘩に自信がある。大丈夫だ。しばらく不便を強いるけど、できる限り、お前のことは守るから」
これでもまだ軽めの防犯対策、じつはちょっと心配だ云々うんぬん。
兄さまは蘊蓄のようにおれに説明と心配を寄せてくる。
おれが思うことといえば、いつの間に防犯対策とやらのグッズを買い揃えたんだろう? とか。
重めの防犯対策はどうなるんだろう? とか。
お買い物やお散歩に行きたくなったら、兄さまは許してくれるかな? とか。
そういったことなんだけど眠気と闘っている手前、考えることをやめておいた。
兄さまのやりたいことだ。
おれが口を挟むのは野暮ってやつだと思う。
何をやってもいいよ。我慢しなくていいよって言ったのはおれだし、へんちくりんな防犯対策をさせてしまった原因は誘拐されたおれ自身にあるわけだし。とくべつ嫌ってわけでもないし。
うん、これは合意のうえだ。
無理やりでも一方的でもない。説明だってしてくれている。
なにより、おれは兄さまのものだから防犯対策をされるのは仕方がない。そうだよ、これは仕方がないこと。兄さまを安心させるために必要なこと。
「にいさま。寝ないの?」
毛布を掛けてくる兄さまに、いっしょに寝よう、とベッドを叩く。
兄さまは力なく笑い、「もうちょっと起きている」と返事した。
だったらおれもいっしょに起きていたい。
そうは思えど、瞼は閉じていくばかり。眠気には逆らえない。
「じゃあ、おれがねるまで……にいさま……ぽんぽんして」
口からはわがままがポツポツ漏れてしまう。
あんなに兄さまにわがままを言っていいと言ったのに、自分がわがままを言っちゃうなんて、とんだお笑い種。おれは根っこから弟気質なんだと思う。
「ああ、いいよ。お前のかわいいお願いだ。なんだってしてやるさ」
兄さまはおれの隣に寝そべると、やさしくお腹を叩いてくれる。
それが嬉しくて、おれは兄さまの懐に潜り込んだ。
入院中だと思いっきり甘えられなかったけど、今晩から誰にも見られることなく甘えられる。今年で14になるけど、やっぱりおれにとって兄さまは頼れる兄で両親代わり。誰にも渡したくない人。おれだけの兄さま。愛情を独り占めしたい。
拘束する器具も愛情表現と思ったら、妙に愛おしい気持ちが生まれた。これは兄さまの愛情表現だ。うん、防犯対策は愛情表現。拘束されている現状がちょっぴり楽しい。
おれも兄さまを拘束したいな。
愛情表現をかえしたい。いっぱいかえしたい。
「那智、寝たか? ……しっかりと俺の手を握っちまって。弱ったな。ベッドから下りられねえじゃねえか」
嬉しそうに笑う兄さまの声が聞こえた。
ああ、それがすごくすごく、うれしい。