ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
7.(元)通りの新たな生活と怪物-兄-
【7】
22時半過ぎ。
ベッドに寝そべっていた俺はすくりと上体を起こし、薬の力で眠りに落ちた弟を見つめる。
兄貴の手を握ったまま、小さな寝息を立てる弟はぐっすり夢の中。
声を掛けても、頬をつねっても、体を揺すっても起きる様子はない。完全に薬が回ったようだ。
俺はベッドサイドテーブルに手を伸ばし、手探りで那智の薬袋を掴むと、処方箋に内容に目を通した。
薬袋には化膿止め、痛み止め、睡眠薬や精神安定剤等などがひしめき合っている。
俺はこの袋に入っている睡眠薬を那智に盛った。
入手するのは簡単だった。
度重なる事件に巻き込まれた弟の心労を理由に、弟用の睡眠薬と精神安定剤をもらえないかと医者に相談。
何度も話を重ねた結果、精神安定剤と一緒に睡眠薬を渡された。
それなりに強い効果を持っているようで、未成年の弟が過剰に薬を摂取しないよう、薬の管理は必ず俺がするように、と口酸っぱく釘を刺された。
結果、今こうして弟は深い眠りに就いている。
薬の管理を任されたことが功を奏したってところか。
とはいえ、那智の様子を見る限り、睡眠薬を使う必要はなかったな。杞憂に終わっちまった。
「那智の抵抗を奪うために薬を盛ったなんて、兄ばかのお前は想像もつかねえだろうな」
身じろぎひとつせず、すやすやと眠っている那智に苦笑い。
薬を盛った理由は単純明快。
この部屋に那智を拘束する際、弟が無駄に暴れないように。そして抵抗しないように手を打ちたかったから。
そう、俺はじつの弟を引っ越し先の部屋に拘束する計画を立てていた。
チェーンで繋ぎ止めることで、簡単に部屋から出られない。外へ連れて行けない。俺がいないとどうしようもない状態を作りたかった。
防犯対策とは名ばかりで、本当の理由は独占したいから。
那智が誘拐されて以降、俺は他人に那智が取られる未来があることを知り、毎日のようにどうすればいいか考えた。
誘拐事件は解決したが、巻き込まれた事件がすべて解決しているわけじゃない。
事件の全貌を知りたい気持ちがある俺は、これからも独自で行動を起こす予定にしている。福島との契約もある。あいつが本当に六千万の半分をくれるかどうかは置いておいて、まあ三千万がもらえるとなれば、生活はだいぶん楽になる。
事件の先々で両親が密に関わっているのも気になっている。
ゆえに俺は独自で行動を起こす、完全な安全と平穏を手に入れるために。
だが問題は那智だ。
ひと目の多い病院ですら、覆面刑事の目を掻い潜って攫われてしまった。
また攫われる可能性だってあるし、今度は命を奪われる可能性だってある。
そもそも那智は『下川の弟』だから、という理由で攫われている。弟が『下川治樹』の弱点になると認識されている。あいつは腕っぷしがねえ。これからも狙われる可能性は大きい。