ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


(思い出すだけで苛々してきた)

 俺は煙草を取り出すと、それを銜えて、先端に火で焙った。
 吸い過ぎている自覚はあるが、今日はしゃーねえ。明日から本数を減らせばいい。くそったれめ。

(一日目の日記で拾えそうな情報はこれくらいか。あとは暴力を振るわれたことくれぇしかねえな)

 那智の丸っこい字を一字一句読んでいく。
 一日目の夜にもスタンガンの暴力を振るわれたことが書かれている一方、俺は初めて知る事実に目を丸くした。那智は自分からスタンガンを当てられにいったらしい。

 理由は痛みで兄貴を思い出したかったから。鳥井にドン引きされたらしい。

【痛いことはキライだけど、あの時は痛みで兄さまを感じることができるができた。うれしかった。もっと、もっと、スタンガンを当てられようと思ったけど、とりいさんがさせてくれなかった。おれを痛めつけたくせに、へんなの】

 まぎれもなく那智は俺の弟だな。やることなすこと常軌を逸している。
 そんな那智の心情を知った俺はメロメロになっちまっているから救えねえ。

 可愛いなおい。
 他人に傷つけられる那智は嫉妬しちまうけど、痛みで俺を思い出そうとしていた那智はお目にかかりたかった。さぞ可愛かっただろうな。

 二日目、三日目の日記は那智が電話で教えてくれた情報が載っていた。

(これはメモした内容と大体一緒だな)

 俺はチラシの裏にメモした内容と見比べる。
 那智の日記には以下のことが記されていた。

・下川那智の入手。
・No.253のツケはNo.254がまかなう。
・No.254は下川治樹のオプションけいぞくを望んでいない。
・五百万のツケはどこでまかなうのか。
・1200万の内、四分の一しか回収できなくなる。ウチが大赤字になる。
・No.253の二重契約をしていた。No.253は『ふくしまみちお』のこと。

 日記に書かれている『No.253』や『1200万』について、俺は見覚えがあった。
 場所は親父の書斎。福島と書斎を訪れたあの日、俺は見積書や手紙に目を通して『No.253』や『1200万』を目にしている。

 『1200万』は親父が株式会社チェリー・チェリー・ボーイに支払う予定だった金額。
 『No.253』は株式会社チェリー・チェリー・ボーイが親父に宛てた督促状の中に記されていた。福島に確かめたから間違いない。

 那智から聞いた情報と、俺が手にしている整理整頓すると、面白い仮説を立てることができる。

 前提条件として『No.253』は親父のこと。
 おおよそ依頼者は『No.』で呼んでいると思われる。

 親父は株式会社チェリー・チェリー・ボーイに、目の上のたん瘤になっている『不倫の息子』を憎んでいる。
 それまで力でねじ伏せてきた息子が噛みついてきたことに、逆恨みを抱き、株式会社チェリー・チェリー・ボーイにオプションをつけて依頼をした。そのオプションは息子らに対する復讐と仮定する。

 けれど依頼した手前、予定していた『1200万』が用意できなくなった。

 これらを踏まえて、今回の誘拐事件を当てはめていくと……。
 
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