ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


 通り魔事件の首謀者でもある鳥井は株式会社チェリー・チェリー・ボーイの関係者だろう。
 親父の依頼で通り魔事件を起こしたが、親父は金を払えなかった。が、親父のツケを『No.254』が賄うことになった。つまり親父の代わりに金を払う人間が出てきた。

 ゆえに金になる下川那智を狙い、誘拐事件を引き起こした。

 ただし『No.254』は下川治樹のオプション継続を望んでいない。

 オプションは『復讐』だと仮定するなら、『No.254』とって下川治樹は復讐対象外にしたいと申し出たわけだ。
 五百万のツケについて言及していたらしいから、下川治樹単体には五百万程度の価値が付いていたと推測できる。

 また『1200万』の内、四分の一しか回収できなくなる。ウチが大赤字になる、という情報について。
 これは下川那智単体に三百万程度の価値が付いていると推測できる。

 この情報の裏を返せば、那智を連れていけば、四分の一は回収できる、ということだからな。

(いつぞか福島が親父の手帳を見せてくれた。その時、俺は『3,000,000』と記された通り魔事件の写真を目にした。血まみれの那智が写っていたあの写真と『3,000,000』。那智に三百万程度の価値が付いていたと仮定すれば、あの数字にも納得ができる)

 そして最後の『No.253の二重契約』について。
 簡単だ。親父は念には念を入れて、株式会社チェリー・チェリー・ボーイ以外の便宜屋にも依頼をしていたんだろう。

 この仮説が本当なら、三流の推理小説を読んでいる気分になるぜ。
 結局、発端は親父じゃねえかよ。ろくなことしねえな。

(問題は『No.254』が誰か、というところだが……俺のオプション継続を望んでいない、ということは俺に少なからず好意を抱いていることだろうから)

 自然と高村彩加が頭に浮かんでくるが、安易にそう思っていいのか。
 そもそも親父のツケを高村彩加が支払えるわけがない。福島伝手で調べたが、あいつの両親は中小企業の会社員。決して裕福な家庭とは言えない。
 仮に高村彩加が『No.254』だとしたら、それ相応の大金が必要になる。

(まさか消えた六千万を握ってんのか。あの女)

 六千万を握っているのであれば、『No.254』が高村彩加だと言われても納得できる。
 高村彩加は俺に好意を抱いている。俺にオプションをつけない点や、那智に宜しくない感情を抱いて、鳥井に攫わせてもなんら不思議じゃない……が。

 俺は銜えている煙草を指に挟み、ゆっくりと紫煙を宙に吐く。

(高村彩加にそこまでの行動力があるのか)

 高村彩加は那智を自立させると俺に宣言していたが、一方で俺がどれだけ弟に依存しているのか、本当の俺が見えているなら分かっているはず。
 俺から弟を取り上げたら、どんな感情を抱かれるのか、ばかでも分かると思うんだがな。
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