ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
下川兄弟の暮らすアパートのことシェルターは警察署から五分程度の距離にある。
ゆえに、徒歩で行けるのだが、益田はわざわざ勝呂に覆面パトカーを出させ、それでアパートへ向かった。
これにはちゃんとした理由があるのだが、理由を聞いた柴木と勝呂はしばらく言葉を失っていた。なんとも青臭い反応である。もう少し図太くなってもいいのに、と益田は思った。
閑話休題。
アパートを訪れた益田は、さっそく下川兄弟に会いに部屋へ足を運ぶ。
下川治樹はすぐに顔を出してくれたが、益田を見るや、すこぶる忌々しそうに顔を顰めてきた。とことん益田のことを苦手にしてくれているようだ。
結構けっこう、益田としては扱いやすい。
「よう兄ちゃん。元気にしていたか。会いに来たぞ」
「巡回は勝呂や柴木が来ると聞いていたんだが? なんでお前が来るんだよ」
「たまにはおいちゃんも会いに行かねえと忘れられると思ってな」
「うぜえお前」
ドアを閉めようとする下川治樹に、「まあまあ」と笑いながら、やんわりと足で行動を制する。
それがまた下川治樹の癪に触ったのか、毎日巡回に来てくれなくて結構だと強めに主張するも、益田は右から左に聞き流すばかり。
向こうがドアノブを離し、閉めることを諦めたところで、話を切り出す。
「ちと時間をくれ。あんま思い出したくねえだろうが、現場検証をしたいんだ」
「現場検証? もう夕方だぜ。通り魔の現場検証でもするのか?」
「うんにゃ。ストーカーの方だ。今からお前さんが暮らしていたアパートに向かいたいんだが、住んでいた本人も同行してほしくてな。ついでに坊主もいてくれると助かる」
人差し指を立て、下川那智といっしょに来てくれないか、とお願いする。
弟の名前を出したことで、一層下川治樹は不機嫌になった。
当たり前のように自分だけじゃだめなのか、と聞いてきたので、益田も当たり前のように返事する。被害者の同行が一番望ましい、と。
「お前さんだけ連れてってもいいが、坊主がさみしがるだろうよ。せっかく退院したんだ。留守番より兄ちゃんと一緒のが嬉しいんじゃねえか」
少しだけ声音を大きくして言ったせいなのか、リビングから物音が聞こえた。
ひょっこりと下川那智がリビングの向こうから顔を出す。
玄関に近づく様子はないが、何事だろうとこちらの様子を窺っている。写真で見た通り、首にはチョーカーが嵌められ、足首にはチェーンが巻かれていた。
チェーンは兄の仕業だと確信した益田は、その姿にあえて触れる。
「兄ちゃん。ありゃ新手のプレイか? おいちゃん、ついていけねぇんだが」
「べつに。ただの防犯対策だ」
防犯対策の一言で済ませる下川治樹は、わざと異常性を見せて、益田達から距離を取ろうとした。
その方が気が楽なのやもしれないが、益田は「へえ」と相づちを打つ程度に済ませると、下川那智に手を振り、「元気だったか?」と声を掛けた。
「今から現場検証に行くんだが、兄ちゃんと一緒に来てくれるか? 兄ちゃんは自分一人でいいって言うんだが現場検証は大変でな。坊主が手伝ってくれると、兄ちゃんがすごく助かる」
「あ、てめ」
「兄ちゃん、もう少し弟に頼ってもいいんじゃねえか? お前さんが頼ってくれたら、坊主だってすごくうれしいと思うぜ」