ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
(男同士のセックスを調べてみたが、九割九分那智のカラダに負担を掛ける。あれはやべえって)
那智からは我慢しなくていいよ、と言ってもらえたが、こればっかりは兄心が先立つ。
支配欲が強いせいで、相手が弟だろうと俺は男役に回りたいもんだから、必然的那智は女役に回るわけで……いまの那智にセックスなんてしちまったら、裂けちまうんじゃね? どこのナニとは言わねえけど。
ポジションを逆にすれば懸念は薄まるが、それは俺の自尊心が許せねえ。勘弁してくれってなる……意外と難しいんだな、セックスって。
まあ、セックスについては焦らなくていいだろう。
那智は他人と触れ合うことができなくなっている。それだけでも十分だ。俺も他人と触れ合う世界なんざ、おぞましくて考えられねえ。
「弟くん。男よ」
「知ってる。俺にとってどうでもいいことだ」
「近親相姦って知っている?」
「心底あいつが妹じゃなくて良かったと思ってる。ガキを孕む心配がねえ」
悪意たっぷりに笑ってあぴっろげに胸の内を語ると、福島が苦々しく唸ってハンドルに凭れた。
「あんたってそういう男だったわね。確かに那智くんって可愛い顔をしているし、あんたは腹立つけどイケメンの分類に入るからセックスしても絵になるんだろうけど……昼前からあんた達のシモ事情を聞く羽目になるとは思わなかったわよ」
「話を振ってきたのはお前だろうが」
「このご時世、恋愛は個人の自由なんだけど……まさか中学生に手を出すなんて」
「まだやってねえよ。まだな」
「はあ。そんな話を聞かされた後に、お願いするのもなんだけど下川、あたしの彼氏をしてくれない?」
「は?」
「だから、あたしの彼氏をしてくれない?」
土器で頭をかち割られる衝撃を受けた。は?
「誰が?」
「あんたが」
「誰の?」
「あたしの」
「何をするって?」
「彼氏をしてほしいって話」
「笑えねえ冗談だな」
「冗談じゃないもの。笑わなくていいわよ」
「…………」
「…………」
帰りてえ。
那智を置いてきたけど、俺も心理療法に行くかな。今から参加してもいいよな? な?
「おい福島。てめえはいつも唐突に話を振ってくる。なんでそうなるんだ? 正気か?」
今しがた、弟とセックス云々の会話をしていたところに、『彼氏をしてくれない?』の流れはあり得ねえだろ。
いくら異母兄弟で半分血が繋がっていようと、俺はお前を触りたい気持ちにはならねえんだけど。
むしろ、気色悪い対象なんだけど。俺とお前は他人と思っているんだから。
露骨に顔を顰める俺に、「本当に付き合うわけじゃないわよ」と、福島は軽く手を振り、車のエンジンを掛け始める。
「あんたと付き合うくらいなら、あたしは那智くんと付きあ……殺す勢いで睨むのはやめてよね。今から運転するんだから」
「うるせぇ死ね」
「ガキ。事故ったらあんたも道連れよ」
「那智を泣かせたくねえからやめろ」
「あんたから振ってきた喧嘩でしょ」
「腹立つ女だな。で、彼氏をしろって意味は?」
「正しくは演じてほしいかしら。彼氏をしてほしいってお願いしているのは、福島道雄があたしに『下川治樹』と距離を置け、だなんて言ってきたからよ」
おっと、なんだその妙に心躍りそうな話。
「へえ。面白そうな話だな。詳しく聞かせろよ」