ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
にやにや笑う性悪男を一瞥した後、福島はアクセルを踏んで車を発進。
流れる車の列に上手くまぎれながら、『彼氏を演じる理由』を語った。
「三日前、留置場に足を運んで福島道雄と面会してきたの」
親父はまだ留置場にいるんだっけ。
傷害事件を起こして20日は経っているから、そろそろ刑務所に連行されてもおかしくねえと思うんだが……傷害事件とは別件で容疑が掛かっているのかもしれねえな。警察もばかじゃねえ。親父の依頼についても洗い始めているはずだろうし。
「親父に会うなんざお前も物好きだな。あいつ、一応札付きの人間だぜ?」
「これでも戸籍上、血を分けた家族だから様子を見に行こうと思って。六千万の手掛かりを持っているかもしれないし」
「本音は金だけだろ」
「そりゃそうよ。それ以外にあいつの価値なんて無いわ」
おやおやおや。
親父が聞いたら号泣もんだぞそれ。
一応お前は親父から愛された家族なんだから、廃人になっちまうんじゃね?
心中でたっぷり毒づく俺を尻目に、福島は話を続ける。面会をするために留置場へ足を運んだら、顔を合わせ早々『下川治樹に会っているのか』と詰問されたそうだ。
その焦りっぷりに思うことがあった福島は、正直に会っている旨を伝えたらしい。無論、俺たちが異母兄弟であることも。
知らぬ存じぬを貫くには、少々親父の起こした事件は事が大きすぎたもんな。
間が悪かったともいうか。ただでさえ那智の通り魔事件が話題に挙がっていた最中の事件だったわけだし……仮に福島が俺達の存在を知らなかったとしても、ニュースを通して『不倫の子』の存在は知っていただろう。
とにもかくにも、福島は親父に下川治樹と関りを持っている旨を伝えた。
大学の友人として仲良くしている、と含みある言い方で伝えたとか。
するとどうだ。親父が狼狽えたように『下川治樹とは距離を置け』と説教してきたらしい。
あれと関わっても良いことなんぞ何もない。
あれは地元じゃすこぶる評判の悪い男。他人を平然と傷付け、他人を甚振ることに興奮を覚える凶暴性の高い男。肉親の弟ですら支配に置く危ない男。
お前が傍にいれば、どんな目に遭うか分からない等など、父親面を作ってド正論を言われたらしい。
それを聞いた福島は、今まで自分たちを裏切っておいて、今さら父親面する福島道雄が滑稽で仕方がなかった。
だから言ってやったそうな。
『距離を置くなんて無理よ。お父さんが逮捕された時、あたしを誰よりも支えてくれたのは下川なの。黙っていたけど、あたしと下川は付き合っているの』
「結果、福島道雄は過呼吸になって倒れたわ。面会どころじゃなくなったわ」
「ぷははっ。お前、親父にそんなえげつねえこと言ったのかよ、傑作なんだけど」
思わず声を上げて笑ってしまう。
口を閉じても、開いても、笑声が零れるもんだから本当に俺は性格の悪い男だ。
親父としては下川治樹と愛娘を少しでも離れさせたい気持ちでいっぱいなんだろうが、福島はそれを逆手にとって親父の精神に会心の一撃を与えたってわけだな。
なるほどね、だから彼氏を演じろってことか。
「留置場の面会は下川でも受付をすればできる。彼氏をしてほしい意味、分かるわね?」
「お前も悪い女だな。ンなことしたら、親父が心臓発作で倒れるんじゃね?」
「偉そうな顔が青褪めていくのは気持ちいいわよ。スカッとするわ」
「ハッ。最高じゃねえか。そのツラ拝んでやりてぇな」