ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


「他人同士で繋がるから、簡単に家庭崩壊を起こす。だったら、俺は異母兄弟の福島を選ぶ。こいつとなら家族とやらになってもいい。半分は他人の血が混じっているが、まっさらな他人よりはマシだろう。ふふ、きっと那智は喜んでくれるはずだ。そして俺をいい子と褒めてくれるはずだ。あいつは親の愛情を知らず、いつも他の家庭を羨ましがっていた。入院生活中、何度親子連れを見かけて悲しそうな顔をしていたか。普通の子どもになりたいと願っている那智の夢を、俺は叶えてやりたい」


 福島なら那智も受け入れてくれるだろう。
 那智にとって福島は園芸に詳しい優しいお姉ちゃん。福島が俺の妻になったとしても、過度に人見知りすることもなく、寧ろ義理の姉だと知って心を開くだろう。もちろん、一番の座は譲らないが、二番の座なら福島に席を譲ってやってもいい。

 想像するだけで心が躍る。
 さっそく面会終わりにチェーンを買わないと。
 弟を繋いでいる頑丈なチェーンを、福島にも贈らないと。
 チェーンを嵌めてもらわないと。
 いやいや、いっそ部屋に閉じ込めてしまおうか。
 最愛の弟がいて、福島がいて、俺がいて、壊れない家庭がそこにある。誰にも壊すことができない家族がそこにある。

 そうだ、これが俺たちの憧れていた普通の家族の図なんだ!

「素敵な話だろ。親父」

 恍惚に語る俺の目に、顔面蒼白した親父が飛び込む。
 どうしたんだ。親父。俺の夢語りに何かおかしいな点があるか? なあ。

 性悪な俺は言葉を失う親父に頬を緩めた。

「入籍は理想を追求した答えだ。カタチがいびつであれどうであれ、俺たちは普通の家族を築く。そう思わせるようなことをしてくれたのは親父、お前らオトナだぜ?」

 俺と福島の間柄に、世間一般的な好意はない。
 けれど、世間一般的では生み出すことが難しい関係性がそこにはある。

 それを利用しない手はないだろう。

「これは、お父さんの行いに対する贖罪でもあるわ」

 と、それまで傍観者に回っていた福島が口を開く。

「お父さん。あたしはこれまで、貴方を良き父親だと思っていたわ。家族サービスも良くて、いつもあたし達姉妹に愛情を与えてくれた。だけど、その裏で別の家庭を持つだけでなく、下川たちの虐待に見て見ぬふりをした。下川も那智くんも、服の下は傷だらけで壮絶な虐待が想像できた。どうして助けなかったの? あなたは知っていたんでしょう? 息子たちに対する虐待を」

 福島は語る。
 自分は父親にとって『正しい子ども』なのやもしれないが、父親の行動のせいで俺と那智は『誤った子ども』と成り下がった。
 無論、不倫は憎い。不倫の子どもである下川たちも憎い。

 けれども不倫の子どもを憎む以上に、自分は不倫の子どもに憎まれる存在だった。

 数奇な巡り合わせにより、自分と下川は出逢い、同じ大学に通い、繋がりを持った。自分は下川に支えられたし、下川は弟のために普通の家族を築こうと夢見ている。
 下川兄弟の境遇を聞き、血の繋がりを知り、下川と意気投合した結果、自分は不倫の子どもと入籍する覚悟を決めた。少しでも彼らの夢が叶えられるのなら、それが見て見ぬふりをしてきた贖罪になるのなら、喜んで入籍すると福島は言い切る。

(どーの口が数奇な巡り合わせなんざ言ってるんだ。お前)

 俺はついつい水を差すようなことを内心で思ってしまう。

(ストーカーばりに俺の受験先を調べて、俺と同じ大学に受験したくせに。イッ!)

 口には一切出していないが、態度に出していたらしく、思いっきり右の脛を蹴られた。
 はいはい、分かった。真面目に彼氏ヅラするって。

「ねえお父さん。チェリー・チェリー・ボーイについて聞いていいかしら。下川と入籍を決めた日を境に、あたしの周りに不審な人間がまとわりついているの。そのひとりを下川や友達といっしょにひっ捕まえたら、チェリー・チェリー・ボーイの人間だとかなんとか言われたんだけど、何か知っている?」
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