ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】


 とんだ作り話を始める福島だが、良い頃合いだと思う。

 いい加減、しあわせ家族計画ごっこを演じるのも疲れてきたからな。
 何が悲しくて、福島と入籍とかしなきゃなんねえんだか。親父の顔色を変えられたらそれでいい、と思っていたが、やっぱ疲れるぜ。異母兄弟の彼氏を演じるのも。

 親父もいい感じに追い詰められているようだし、今ならゲロってくれるだろう。
 福島の疑問に、親父は額に手を当て小さく唸った。

「チェリー・チェリー・ボーイが朱美を狙ってきたのか。くっ、金を払えない腹いせなのか、それとも朱美に金を支払わせようという魂胆なのか。あの金さえあれば」

 金さえあれば、ね。
 俺はショルダーバッグから走り書きしたメモを取り出す。

「株式会社チェリー・チェリー・ボーイは、表向きアダルト会社だが、ネットではどんな性癖を叶えてくれる何でも屋。親父、あんたはそこに依頼をした。目の上のたん瘤となっている不倫の子どもを手前の人生から排除するために」

 気持ちは分からんでもない。
 順風満帆だった人生を送っていたはずなのに、不倫の子どもから下剋上されちまったんだからな。大層、俺の存在はあんたにとって邪魔だったろうさ。

「依頼ナンバー『No.253』。それが株式会社チェリー・チェリー・ボーイから呼ばれていたナンバーネームだろ? 『1200万』なんてばかみてぇな大金をはたいてまで俺を消そうなんざ、俺もずいぶん高く付いたもんだ」

 まあ、結局『1200万』が払えずに、督促状をちょうだいしたようだが?
 くつくつと喉で笑い、「よく調べているだろう?」と、指でメモを挟んで、それをひらひらと親父の前にちらつかせる。

 あらかたのことは調べ上げているとアピールした。

「ここまで調べた結果なのか、代償なのか、福島まで狙われるようになった。まあ、一応籍を入れるわけだから情報がほしいところなんだが、あんた、何か知ってんじゃねえの?」

 親父の情を突くように語ると、愛娘を思う気持ちが優ったのか、近くに警察がいるから助けを求めたくなったのか、親父は株式会社チェリー・チェリー・ボーイについて消えそうな声で話し始めた。

 株式会社チェリー・チェリー・ボーイに依頼した内容は予想通り、『不倫の子どもの始末』。それまで見て見ぬふりでいた不倫の子どもが牙を向けてきたことで、身の危険を感じたそうな。

 それこそ、いつ自分や自分の家族に復讐するやもしれない。
 その証拠に俺と福島は同じ大学に通い始めた。
 那智は福島がアルバイトする店の常連になった。

 何か起きる前に、何とかしなければならない感情に駆られたそうな。

 そうなった経緯は俺と那智が原因じゃなく、福島の行動力の高さなんだが、それはさておき……親父は株式会社チェリー・チェリー・ボーイに依頼をした。下川芙美子と手を組んで。

「ババアと手を組んだ理由はなんだ? 手前ひとりで依頼すりゃ良かったじゃねえか」

「……依頼には金が要る。法子から奪った金を使うには、あいつに共有する必要があった」
「法子?」

「下川、法子はあたしのお母さんのことよ」

 なるほどな。
 福島夫婦が蓄えた六千万を、親父が奪って、ババアに共有……待て。

「まさか、あんた。ババアと結託して、貯蓄した六千万を奪ったのか」

 じゃなきゃ、共有する必要なんてねえ。

「法子が悪い。あいつは私の部下と不倫していたのだから」

 そういうお前はババアと不倫していただろうが。
 だから、俺と那智は生まれたんだぜ? 分かってんのか。そこのところ。

(なのに法子が悪いなんだのかんだの、つま先も自分の非を認めねえって……呆れを通り越して感心するんだけど)

 これが俺の親父なのか? まじで? 俺も大概で一般常識から逸脱している人間だと思っているが、親父よりマシな気がしてきたぜ。

「頭痛くなってきたわ」

 隣で福島が唸っている。
 この時ばかりは福島に同情した。これが親父なんて可哀想にな。俺も自分が可哀想だと思ってきたぜ。こんな奴が親父なんて。
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