ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
警察署 駐車場 車内。
午後17時半。
長時間の面会を終えた俺と福島は、ようやっとの思いで車に戻ることが叶った。
揃いも揃って、二人ともぐったり。シートの背もたれに頭をあずけ、車内の低い天井を見つめていた。
あれから大変だった。
予想通りの任意事情聴取を、益田から求められるわ。チェリー・チェリー・ボーイについて洗いざらい話すよう促されるわ。警察の領域にクビを突っ込むなと説教を受けるわ。
ついでに、那智のストーカーが再発している説明を受けるわ。
てんやわんやな時間を過ごした。昼飯を抜いて、ずっと誰かと話しっぱなし。つらいことこの上なかった。
結局、益田の下に慌ただしく知らせを持った警官が来たことで、話は切り上げになったが、後日また事情聴取をされるんだと。勘弁しろって。
「福島。一本吸うぞ」
窓を半分、開けたところで、福島が左手を差し出してくる。
「あたしにもちょうだい」
「お前、吸えるのかよ」
「こう見えて、今まで真面目ちゃんだったの。これはデビュー戦よ」
「そりゃ大したデビュー戦だな。咽ても責任は取らねえぜ」
煙草を銜えると、向こうで煙草を銜える福島の分と併せて、ライターで火を点ける。
思いの外、福島は煙草と相性が良かったようで、咽返る声は聞こえなかった。
ぼうっと二人で煙草を吸い、たゆたう紫煙を見つめながら時間を過ごす。
「あたし達、三姉妹はさ。下川のところと違って、何も無くてもいがみ合う仲だったの」
おもむろに福島が語り部に立つ。
会話のない空間に堪えられなくなったのか、それとも単に話を聞いてほしいだけなのか、運転席に座る女は車窓枠に頬杖をついて、外の景色を眺めながら嘲笑する。
「勉強、容姿、要領のよさ。いつもお母さんは、それらを引き合いに姉妹を比べていたわ。おかげで、三姉妹間にヒエラルキーが生まれて誰が一番だの、誰が一番下だの、雰囲気で競い合っていた」
それは決して表に出すことはなかったが、たとえば勉強の点数を姉妹間で見合い、優劣をつけあった。
容姿だってそう。最初に彼氏ができたのは姉で、スポーツマンシップに優れた彼氏を大層自慢してきた。要領の良さに関してはいつだって妹がずば抜けていた。いつだって自分は姉妹に何かで負けていた。
ゆえに、母親は福島を姉妹と比べながら苦笑い。
貴方にも良いところはあるはずよ、と表向き励ましながら、内心は「この程度だ」と見下していた。姉妹にいたっては、必要最低限「次女」には優っているから大丈夫だと思って、己を見下していた。
福島はそれが嫌で堪らなかったが、姉妹喧嘩になるといつも負けてしまっていた。言い返すだけの力が自分にはなかったから。
「姉や妹とは、顔を会わせる度に喧嘩ばっかり。血の繋がりがあることに嫌気が差すほど。下川のところと真逆ね。どっちが関係が脆いかなんて、誰が見ても分かるのに、あの男はちっとも現実を見ていない――ねえ。下川は那智くんが劣っていると思ったことはある?」
劣っている、ね。
俺は車窓の向こうに見える警察署を見つめ、ゆっくりと煙草を吸った。