ふたりぼっち兄弟―Restart―【BL寄り】
落胆する福島の隣で、俺はしかめっ面を作るばかり。
妄想は個々人の自由だが、現実の俺を巻き込まないでいただきたい。
なあにが「下川くんを自由にする」だ。俺はもう自由だっつーの。那智を自立させたいってことも言っていた記憶があるし、那智と高村は絶対に接触させねえようにしねえと。那智が傷付くかもしれない。
「アテもねえし、高村のところに行くか」
「あんまり気は進まないけど、まあ、仕方ないわね。明日にでも行ってみましょ」
「今から行けばいいじゃねえか」
明日にするなんざダルイ。
たとえ相手が福島の友人だろうが何だろうが、俺はさっさと金の居所や、この事件を終わらせたいんだ。グズグズするつもりはねえんだが?
福島に嫌味ったらしく文句を投げると、嫌味ったらしいため息をつかれた。なんだよ。
「あたしは別にいいけど、あんたはいいわけ?」
「あ?」
「時間よ時間。時計を見なさい」
時間?
俺は携帯を取り出し、時間を確認する。
17時半か。まだ夕方だから、今から高村のところに言っても別に……待て、17時半だと? 心理療法にいる那智には16時に迎えに来るっつったから。
「やべえ。約束した時間から1時間半も経ってやがる。福島、車を出せ。心理療法に行く」
「彩加はどうするのよ」
「ンなもん、明日でいい。那智が優先だ」
「あんたって、ホント最優先は那智くんなのね」
呆れかえる福島を急かすと、「ハイハイ」と言って、エンジンを掛け始めた。
その間、俺はシートベルトを締めながらあれこれ言い訳を考える。那智は優しいから、きっと許してくれるだろうが………遅刻した理由は気にするはず。大学の事務書類に手間取った、とかでいいか? ああくそ、これもそれも益田が任意事情聴取なんざするせいだ。こんなに長引くなんざ聞いてねえっつーの。
噂をすればなんとやら。
携帯に着信が入る。名前を確認すると『下川那智』。
俺は発進する車を確認しながら、慌てて電話に出た。俺達を乗せる車の横を、何台ものパトカーが通り過ぎる。事件でも遭ったんだろうか。
「那智か。悪い、今から迎えに行く」
『兄さま……そっちは大丈夫ですか?』
「大丈夫? どうした那智。何か遭ったのか?」
『おれは大丈夫なんです。なんですけど』
「那智?」
不安にまみれた声の向こうで、雑音が聞こえる。テレビの音か?
『いま梅林先生とニュースを観ていたら、鳥井さんのことが流れたんです。なんでも病院から脱走したって』
「……鳥井が、脱走?」
『はい。そして、梟さんの顔も出ていたんですけど、病院のトイレで殺されたらしいです。梅林先生曰く、銃殺らしくて。益田けーぶから、さっきお電話もらいました。お前さんどこにいる? って。梅林先生が答えてくれたんですけど』
そっと携帯を握り締める。
重傷を負っていた鳥井は病院から脱走。
梟と呼ばれたあの男は病院のトイレで殺された。
那智の誘拐事件に関わった主犯たちに動きがあったってことは、間違いねえ。水面下でチェリー・チェリー・ボーイが動き始めた。