水面に浮かぶ月
2010年7月7日
2010年7月7日、午後7時。
透子は『ホテル ニューオーイシ』の最上階にある、2501号室のドアをノックした。
少しして、重厚な扉が開かれる。
「待ってたよ、透子」
光希は甘いマスクをふっと緩ませ、透子を部屋へと招き入れた。
ドアを閉めるなり、光希は透子を抱き締めた。
「会いたかった。死ぬほどこの日を待ちわびてた」
「私もよ」
光希は透子に軽くキスをし、熱っぽい息を吐いて、
「今日からが、俺たちの、本当の意味での始まりだ」
光希はまた透子の唇を奪う。
でも、透子は、くちづけを深くしようとした光希を制すように、
「待って。ダメ。乾杯が先」
体を離す。
光希は困ったように笑いながら、
「こっちに」
透子を部屋の奥へと招き入れた。
もうひとつドアを開けると、そこには豪華すぎるリビングルームが広がっていた。
だが、透子はそれには目もくれず、一面に広がるガラス窓に駆け寄る。
「すごい……」
「でしょ? この街が一望できる。きっと透子は気に入ると思ってた」
足元にあると錯覚するような、街の明かり。
だからこの街を支配しているような気分になる。