水面に浮かぶ月
そして迎えた、2011年7月7日。
透子と光希の、21歳の誕生日。
ばたばたしていて、ふたりは時間を作るだけでもやっとだったため、今年は質素に光希の部屋でお祝いをした。
「色々あったけど、早いものね、1年って。去年の誕生日のことが昨日のことのように思い出せるわ」
光希の部屋には必要最低限のものしかない。
だが、テーブルの上には、不似合いなほどに大きな花をつけた、白いバラが用意されていた。
透子はバラの花弁に触れる。
「俺は7歳の誕生日のことさえはっきりと覚えてるよ。あの時の風の匂いも、雲の形も、何もかも、すべて。忘れたことなんて一度もない」
「ふふ。懐かしい」
今日で14年。
変わったことだらけの中で、唯一、変わっていないのは、こうしてふたりで誕生日を祝い合うことだけだろう。
光希は透子を後ろから抱き締めた。
「透子がいてくれなきゃ、俺はどうなってたかわからない。透子がいてくれたからこそ、俺は」
そこで言葉を切り、光希は透子の首筋にくちづけを添えた。
「俺はね、透子の存在に救われてるんだ。あの日から、今でもずっと」
「光希……」
振り向くと、光希は優しくも悲しい顔で笑い、透子にキスをした。
透子は光希に寄り掛かる。
「光希は私にとっては希望の光よ。光希の示す先が、私の進むべき道になるの」
夜を照らす月の輝きと同じ。
「光希がいてくれなきゃ、私の世界は真っ暗なままだった。光希が手を差しべてくれなきゃ、私の中の小さな私は、真っ暗な、あの部屋で、きっと今も帰ってこないママを待ち続けて」
「透子」