水面に浮かぶ月


そして迎えた、2011年7月7日。

透子と光希の、21歳の誕生日。


ばたばたしていて、ふたりは時間を作るだけでもやっとだったため、今年は質素に光希の部屋でお祝いをした。



「色々あったけど、早いものね、1年って。去年の誕生日のことが昨日のことのように思い出せるわ」


光希の部屋には必要最低限のものしかない。

だが、テーブルの上には、不似合いなほどに大きな花をつけた、白いバラが用意されていた。


透子はバラの花弁に触れる。



「俺は7歳の誕生日のことさえはっきりと覚えてるよ。あの時の風の匂いも、雲の形も、何もかも、すべて。忘れたことなんて一度もない」

「ふふ。懐かしい」


今日で14年。

変わったことだらけの中で、唯一、変わっていないのは、こうしてふたりで誕生日を祝い合うことだけだろう。


光希は透子を後ろから抱き締めた。



「透子がいてくれなきゃ、俺はどうなってたかわからない。透子がいてくれたからこそ、俺は」


そこで言葉を切り、光希は透子の首筋にくちづけを添えた。



「俺はね、透子の存在に救われてるんだ。あの日から、今でもずっと」

「光希……」


振り向くと、光希は優しくも悲しい顔で笑い、透子にキスをした。

透子は光希に寄り掛かる。



「光希は私にとっては希望の光よ。光希の示す先が、私の進むべき道になるの」


夜を照らす月の輝きと同じ。



「光希がいてくれなきゃ、私の世界は真っ暗なままだった。光希が手を差しべてくれなきゃ、私の中の小さな私は、真っ暗な、あの部屋で、きっと今も帰ってこないママを待ち続けて」

「透子」
< 103 / 186 >

この作品をシェア

pagetop