水面に浮かぶ月
ベッドの中でまどろんでいるうちに、空が白んできた。
光希は透子の頬にくちづけをし、灰皿と煙草を手にベランダへ向かう。
透子も体を起こして後を追った。
「何でくるの」
「ダメ?」
「ダメだよ。臭いが移るじゃない。それに、そんな薄着で、風邪でも引いたらどうするのさ」
「だって、たまに一緒にいる時くらい、離れたくないじゃない」
光希は困ったように肩をすくめ、煙を透子と反対の方に吐き出した。
透子は子供のように、ベランダの柵から身を乗り出す。
「ねぇ、光希はどうして私の前で煙草を吸わないの? 私、嫌だなんて一言も言ってないと思うんだけど」
光希は苦笑いした。
「昔、透子が気管支炎になって苦しそうにしてたのを見て以来、トラウマなんだよ、俺の中で。また透子があんな風になったらどうしよう、って」
「ならないわよ。なるわけないでしょ」
「うん。でも、透子は体が弱いから」
いつの話をしているのやら。
透子は思わず笑ってしまった。
次第に青くなっていく空を仰ぐ。
「ねぇ、見て。夜明けよ」
「そうだね」
「私、夏の夜明けの空が一番好きなの。光希は?」
嬉々として問う透子に、光希は、
「俺が一番好きなのは透子だよ」
さらりと言われ、また透子は笑ってしまった。
新しい朝が来た。
21歳の、夜が明けて。