水面に浮かぶ月
変化の予兆
8月末日。
透子は正式に『club S』を退店した。
『JEWEL』の時同様、透子の最後を飾るために、たくさんの客が集まったのだと噂で聞いた。
誇らしさと同時に、嫉妬心もあり、光希はそんな自分に苦笑いした。
それから、ふたりで、透子の新しい店のことについて何度も話した。
準備を重ねながら、忙しくも嬉しそうにしている透子の姿を見ていると、光希まで触発されてしまった。
だからこそ、光希は、さらなる事業拡大のため、『promise』にテコを入れた。
まず、今までシンを含めて3人だったボーイを、6人にした。
それと同時に、さらなる接客態度の見直しをさせ、月単位で売上ナンバーワンになった者にはボーナスを出すことにした。
これが功を奏したのか、『promise』は、裏ではそれなりに名の知られるボーイズクラブへと躍進した。
ヨシヒサから電話をもらったのは、そんな頃だった。
「光希さん、最近ちっとも俺と遊んでくれねぇんだから」
車に乗り込んでくるなり、ヨシヒサは開口一番に文句を垂れる。
用がなければお前みたいな暴走族崩れの不良となんて、関わる理由もない。
とは、もちろん言うわけもなく、
「忙しかったんだよ。ごめんね」
光希は笑みで返した。
「ヨシヒサは、俺に相手をしてほしくて、わざわざ電話をしてきたの?」
正直、暇ではない。
そんなことのためなら、さっさと帰りたいと光希は思った。
ヨシヒサは肩をすくめて見せ、