水面に浮かぶ月
「クスリ売りのリョウって野郎が飛んだらしいけど、あれはあんたの仕業か? 光希さん」

「さぁ? 何のことだか」


はぐらかすように言う光希。

だが、ヨシヒサはそれでは引かない。



「あんたはずっと、あのリョウって野郎を疎ましく思ってた。そんなやつがいきなり飛んだら、あんたが関わってると思うのが普通だろ」

「何でもかんでも俺の所為にしないでよ。それに、もしそうだとしても、それがどうしたっていうの? 俺を責めたい? リョウがいなくなってもヨシヒサに不利益はないはずだよ」

「そりゃそうだけど。でも、俺だってこの街の動きは知ってたいんだよ」


芸能人の情報を知りたがる週刊誌好きの年寄りみたいな台詞だった。

光希はそれを鼻で笑う。



「知りたいことがあるなら、少しは自分で動きなよ、ヨシヒサ。俺は手の内すべてをお前に教えてやるほど優しい人間じゃない」


一蹴してやった光希に、ヨシヒサは子供みたいにあからさまに不貞腐れた顔になり、



「あんたはやっぱり、誰のことも信用してねぇんだな。結局は、俺は――他人はすべて、あんたにとっては駒でしかないわけだ?」


馬鹿なままでいればいいものを。

猿が下手に知恵をつけると、面倒でしかない。



「俺のことが嫌になったなら、それでいい。でも、今まで誰のおかげでパクられずに遊べてたか、考えなよ」

「………」

「お前ひとりで何ができる? 俺がいたからお前は『龍神連合』のヘッドになれたんじゃないのか?」


ヨシヒサは唇を噛み締める。



「くだらないことで俺を呼び出して煩わせないでよ。お前は俺の言う通りに動いていればいいんだ」


冷酷に吐き捨てる光希。

唇を噛み締めたままのヨシヒサは、そのまま車を降り、バンッとドアを閉めた。

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