水面に浮かぶ月
3階の事務所でパソコンのキーを叩いていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
顔を覗かせたのは優也だった。
だが、いつものミーティングの時間よりも早い。
「珍しいね。今日は早く片付いたの?」
「あ、……はい」
歯切れの悪い返事を返す優也。
光希は首をかしげながら、
「まぁ、座りなよ。シンもそのうち来るだろうし」
促してやると、「失礼します」と、折り目正しく言い、優也はソファの定位置に浅く腰を下ろした。
光希もパソコンでの作業を中断し、優也の向かいのソファに座る。
でも、優也は顔をうつむかせたままで。
「どうしたの? 何かあった?」
優也の顔は、何か相談事でもありそうな感じで。
だから、切り出してやると、
「……あの」
優也はしばらくの後、やっと顔を上げた。
「シンのことなんですけど」
「うん?」
「あいつ、最近、何か変じゃないですか? 特に、『promise』のボーイが増えた頃くらいから」
光希はまた首をかしげた。
言われたところで、光希には思い当たる節がなかったから。
優也が何を言わんとしているのか、まるでわからない。
「変って、具体的にはどんな風に? 俺には特に変わりはない気がするんだけど」