水面に浮かぶ月
優也はまた少し沈黙を作った後、



「どこがどうってわけなじゃないんですけど。時々、ぼうっとしてたり。とにかく何か悩んでるような気がして」

「本人には聞いたの?」

「はい。でも、『何でもない』とか『プライベートなことだから』としか言わないし」


光希はソファの背もたれにもたれ掛かり、宙を仰いだ。

正直、だからどうした、と言ってやりたかった。



「誰にだって、人には言いたくない悩みくらいはあると思うけど。プライベートなことなら尚更じゃない?」

「それはそうかもしれませんけど。でも、あいつのあんな姿、今まで一度も見たことなかったし」

「………」

「あいつ、普段は明るく振る舞ってるけど、ほんとは人一倍、自分の中に溜め込むタイプだから、俺……」


心配そうに言う優也。

光希はたしなめるように言ってやる。



「優也の気持ちは、わからないわけじゃない。けどね、無理やり聞き出そうとするのは、どんなに仲がよかったとしても、余計なお世話だ」

「………」

「それに、本当に困ってたら、誰かに何か言うでしょ? それまで待ってあげることも大切だと、俺は思うけど」


それでも優也はうなづかない。

光希は諦めて肩をすくめ、仕方なく、



「わかった。俺からもそれとなく本人に聞いてみるから。ね?」


無理やり、優也を納得させた。



その時、再びドアをノックする音が響いた。

噂をすればなんとやら。


シンが「お疲れさまです」と、事務所に入ってきたので、ふたりは目を合わせてうなづきを交わし、話を中断させた。

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